ブックレビュー 酉島伝法


皆勤の徒


(★★☆☆☆ 星2つ)



好き嫌いが分かれる本だろう。SFマニアにとっては探究心をそそられるだろうが、他の文学を含めて幅広く読書を楽しみたい人にとっては、情緒めいた漢字の修辞や自己耽溺とも思える延々たる幻想描写に辟易するかもしれない。俺は残念ながら後者。「もうそんな描写の連続はいいからストーリーを聞かせてくれよ」と思いながら、ゲシュタルト崩壊を起こしそうになる文字の羅列を追ううち、焦れて流し読みをした結果、自分の中に何も残らなかった。

肉感的幻想世界はH.G.ギーガーの絵の文章化のようであり、生理的嫌悪感覚に訴えようとするスプラッター的描写は平山夢明のようであり、マシンと生物のフュージョン世界は円城 塔伊藤計劃のようでもある。
そうした沈降する有機的幻想世界を描くのに興味を惹かれて本書を手に取った訳だが、作者が自分で広げた風呂敷について説明責任を果たすのがあまりに遅く、逆行的進行について読者の忍耐心を保ち続けていられるかというところで、あまり成功していないように見えた(現に俺は途中で嫌になってしまった)。

それらバランスの不均衡をディープな世界ととるか、客観性を失った独りよがりの叙述ととるかによって本書の評価は分かれるのだろうが、俺の個人的感想としては、Enough is enough.である。多分他の著書はもう手に取らないだろう。(2016/5/30 記)