ブックレビュー 石田衣良


波のうえの魔術師


(★★★★☆ 星4つ)

金融エンターテインメント小説、とでも言ったらいいのだろうか。老相場師に雇われた大学生が次第に株式にのめり込み、相場師とともに大銀行相手に大きなディールを画策する物語。と聞くと株式相場のことが分かっていないと楽しめないのではないかと思うが、実際はずぶの素人でも楽しめるようになっている。

話は奇想天外で、しかしリアリティーたっぷりに書いてあり、証券相場のエリート的クールさとは無縁で、下町人情と共に書かれているのが、世相をよく研究している石田らしい筆致。展開にはスピード感があって、一気に読み進められる。ずぶの素人の大学生が突然こなれたように金融用語を使いこなすところは多少はしょりすぎな気もするが、コンパクトな紙数で話を進めるためにはそのくらいでもいいのだろう。世俗的で人情味があってというとドラマ化しやすいだろうなと思っていたら、案の定2002年にはTVドラマ化されていたようだ。

ドラマ化された話の原作というと、文学的な味わいは希薄と思われがちだが、文章好きな人向けへのレトリックも入っていて、その辺り、読み物としてちゃんと楽しめる。軽妙なバランスの良さが光る作品。(2014/8/10 記)