音楽レビュー Kylie Minogue


Golden (2018)


(★★★☆☆ 星3つ)




BMGから出たアルバム。基本的にカントリー調のポップアルバムで、ホリデーアルバムでないスタジオアルバムは”Kiss Me Once”以来4年ぶり。セールスは好調らしく、UKとオーストラリアでは発売第1週で1位。

聴きやすいのだが、カントリー=退屈というイメージに近く、退屈というよりは単調。先行シングルの”Dancing”ではリミックスでアンセムっぽいのがあり、堅実な路線だが、アルバムではどの曲も同じように聴こえるのが難。カイリーも50代になってダンス一色ではいられなくなってきたということか。

80年代、90年代、00年代、そして2010年代と、長きに渡って活躍してきたダンスポップアーティストの軌跡としてはおさえておくべきアルバムだが、黄昏時のようなアルバムアートワークと同じく翳らず、黄金期でいてくれることを願う。(2018/4/21 記)

Kylie Christmas Snow Queen Edition (2016)


(★★★☆☆ 星3つ)




去年発売のアルバムに更に曲を加えての豪華版。去年アルバムを買った人は、全ての曲がこれに収録されているので「何だよ」と怒るかもしれない。ジャケット写真ははっきり言って安っぽいというかやっつけ。時々Kylieのアピアランスにはそういうダサっぽいのがあるが、そうした緩さも一種の魅力なのだろうか(断っておくが、Kylieのことは尊敬して長年聴いているだけに、時々その辺でニヤニヤしてしまうという意味)。

内容だが、やはりクリスマスソングとなるとスローモーで眠くなる感じ。Kylieはポップアーティストとして不動だが、年齢をも含めてスタンダード化を狙ってシフトしていくのかもしれない。来年にはスタジオアルバムとツアーの計画もあるとのことで、その辺は注目していきたい。

曲目ついでに言うと、クリスマスソングが追加されるのは分かるのだが、最後のトラック”Everybody’s Free (To Feel Good)”はここに収録される意味が全く謎。言わずと知れたRozallaの90年代初頭のクラブヒットだが、これはリミックスでもなく、ダンスバージョンでもなく。

そうした内容なので、総じて言えばこのアルバムはファンサービスといったところか。昨年に続いて行われたRoyal Albert Hallでのクリスマスコンサートは、豪華で盛り上がったようだった。(2016/12/17 記)

Kylie Chirstmas (2015)


(★★★☆☆ 星3つ)




発売前にプロモ盤で試聴。今までこうした企画盤が出ていなかったのがむしろ不思議なのだが、デビュー28(!)周年にして初のクリスマスアルバム。内容はというと、オリジナルあり、既存のクリスマスソングありで、アレンジにアグレッシブなものはなく、まったりとした感じ。

となるとKylieのダンス性やポップ性に価値を感じている人には、少々退屈かもしれない。色々なアーティストがクリスマスアルバムを出しているなか、これもコレクションとして加えておいてホリデーシーズンにBGMで流す感じか。もちろん、決して嫌な感じもしなければ、おなじみの声は人をなごませるものではあるのだが、もう少し元気があってもよいのに、と思わせた。(2015/11/14 記)

Kiss Me Once Live DVD/BD (2015)


(★★★★☆ 星4つ)




昨秋のKiss Me Onceツアーのライブビデオ。グラスゴーのThe SSE Hydroというアリーナでの公演の様子が収録されている。豪華絢爛だったLes Folies Tourに比べると、ショー要素よりも音楽ライブの要素が強い。衣装もダンサー含めより抑えられた露出で、セックスが一つのテーマのKiss Me Onceのコンセプトからすると逆説的。

46歳でのツアーとなったKylieは容色衰えず、歌声も安定している。そして、演出をかっちりこなすのに神経を使ったであろうLes Folies Tourに比べて、より自由に歌い、ステージを仕切って自分のものにしている余裕を感じる。往年のPWL時代のヒット曲も原曲ほぼそのままであまりアレンジされずにメドレーになっていたりして、曲へとフォーカスさせる作りだったのだろう。このライブを見る人がKylieのビジュアルを楽しみにしていたとしても、これはこれであり。

しかしビデオワークはチープ。トランジションで同じ手法を複数回使うのはセンスがないし、ダンサーがKylieの周りに集ってコリオグラフィーを楽しむべきところで全体を映さず寄り過ぎだったり、逆にソロで衣装はだいぶ見たからクローズアップにしてもいいところで変化のない長回しだったりして、全体に痛痒を感じる。この辺はKylieに帰責されるべきところではないが、ただ映すだけならYouTubeにライブの観客がいくらでもアップできる時代、プロならではの仕事をしてほしかった。

そんな映像の問題点は気になるものの、ライブ全般は楽しめる。曲の構成もいいし、ファンなら聴き慣れた曲もいいタイミングで出てくる。”All The Lovers”でのビデオインスタレーションでは愛の平等性を謳っているのもさすがゲイアイコンのKylie、外さないなと喝采を送りたくなる。見る価値のあるライブ。(2015/4/4 記)

Kiss Me Once (2014)


(★★★★★ 星5つ)




マネジメント会社を何とJay-Zのところに移籍。マネジメントが変わった影響は音楽にも出ている。大半の楽曲をダンスに振ったのはマーケティング上成功だと思われるが、よりセックスを打ち出したところなども。それが今までのファンにアピールしているかといえば微妙なところだろう(Kylieはセックスを感じさせながらもセックスそのものではないところを行くのが上手かったのに、そこを少し逸脱したように思える)。プロデューサー陣を見ると、UKだけでなくアメリカを見据えた世界市場で成功を目論でいるように見える。アメリカが視野に入ってくれば、セックスを強く打ち出すわかりやすさは必要なのかもしれない。

シングルの”Timebomb”と”Skirt”がこのアルバムに入らなかったのは潔い。それらが入らなくても、色とりどりのダンス・チューンで充分楽しめるから、入れば少し散漫な印象になったかもしれない。

肝心の楽曲はいずれもキャッチー。冒険的ではないが今の音がする。声質とも合っている。Enrique Iglesiasとのデュエットが落ち着いたバラードだったのは意外。彼のシングルはいかにもクラブヒットを狙った派手なリミックスが特徴だからだが、バラードもまたよし。全般に言ってどこかもう少し突き抜けたところがほしいと思わなくもないが、それでも今年46歳にしてダンスで押し切った攻めの姿勢に◎にて星5つ。(2014/3/25 記)

The Abbey Road Sessions (2012)


(★★★★★ 星5つ)




デビュー25週年を記念してのアルバム。新曲”Flower”を除いて過去の曲のアコースティックアレンジで、名前のとおりアビー・ロード・スタジオで収録したもの。何曲かはすでにYouTubeでアルバム発表前から公開されていたが、アルバムはやはり音がクリアでいい。

肝心の歌だが、Kylieがエンターテイナーであると同時に、まず歌手であるという本義を感じることができる。そして、ライブに行った時にも感じたが、歌がうまい。黒人ソウルシンガーなどと比べると当然細い声質なのだが、平板ではなくちゃんと聴かせてくれる。情感もある。
そして、このアルバムではリラックスしたアコースティックな各曲アレンジが、それとうまくマッチしている。カイリーの実力を感じる一枚であるだけでなく、ポップ・ミュージック史としておさえておくべきアルバム。繰り返し聴きたくなる。

Aphrodite Les Folies -Ltd- (DVD) (2011)


(★★★★★ 星5つ)


Les Folis TourのロンドンO2アリーナライブを収録したDVD1枚と、ライブ盤CD2枚組の計3枚のセット。日本公演では望むべくもなかった豪華な演出が堪能できる。メイキングではライブが膨大な人数の労働力とクリエーションの集積であることが見てとれ、そしてアーティストであるだけでなく、もはや自分が巨大なビジネスシステムであるという責任を受け止めてプロジェクトをやりこなすKylieの凄さが知れる。

Aphrodite Les Folies Tour Edition (2011)


(★★★★★ 星5つ)




大評判のワールドライブツアーLes Folis Tourを受けて、アルバム”Aphrodite”にリミックスバージョンと20分のノンストップリミックスを加えた3枚組にしたエディション。↓の”Aphrodite”のレビューでは、聴き始めだったのであっさり書いたが、聴くにつけて、そしてライブに行って聴くとあらためて良い曲が揃っているように思われ、ハウスミックスがまとめて聴けるこの限定盤も大変楽しめる。

Aphrodite (2010)


(★★★★★ 星5つ)




厳しい評判だった前作”X”から、本作で王道ポップス路線に復帰したKylie。やはりKylieはポップであるのがその使命であり、声の持ち味や本人のセクシーさを一番に活かせるフィールドであるように思う。人々が聴きたがっていた今のKylieが提供されていることを、素直に喜んで聴きたくなる感じで、多くのカイリーファンからは歓迎されるだろう。

→(2011年表記追加)Aphroditeのツアーを前に、聴き直してみた。カイリーでしか構成し得ない世界を体現していて、アルバムも聴き慣れてくると各曲の良さが出てくる。特に、スタジオアルバムでは何ということもない曲はライブで聴くと映えていた。良いアルバムと思う。

曲の出来でいうと、先行シングルの”All The Lovers”と、”Heartstring”(日本版にのみ収録のボーナストラック)がいい。

X (2008)


(★★★☆☆ 星3つ)



彼女のヒット作パレードであったツアー”Showgirl”が大成功だったさなか、乳がんが発覚してツアーがキャンセルになったのは大変残念だった。そしてそこから見事に立ち直るのだが、この”X”はせっかくの復活を不意にするのではとハラハラさせられたアルバム。

それはひとえに音楽スタイルがロック寄りになったことにある。エレクトロポップだった前作”Body Language”も今一つ大ヒットとまでは行かなかった結果、またサウンドスタイルを変化させる必要があると判断してのことだったのか、今聴くと良い曲もたくさんあるが、当時の市場での受け、ことにカイリーのメイン支持層であるゲイには向かなかったのが敗因か。
このアルバムからカットされたシングルはハウスリミックスもいくつか出て、少しアプローチを軌道修正していた感があるが、難しいアルバム。

Showgirl (DVD) (2005)


(★★★★★ 星5つ)


21世紀になって完全復活を遂げたKylieの凱旋公演。ヒット曲が次々流れ、ショーの衣装も彼女がメイキングの中で”feathers, feathers, feathers!”と言っているとおり豪華な羽根を背負った姿が印象的。

曲のアレンジも凝っていて、90年代のダンスミュージックシーンを知っている人なら感涙ものの凝ったアレンジがある。このツアーの最中に乳がんが発覚して、このツアーは乳がんの治療後に再構成されて、Home Coming Tourと題され再スタートを切るわけだが、エンターテインメントとしてエポックメイキングなこの映像は見ておいて損はない。

Ultimate Kylie (DVD) (2005)


(★★★★☆ 星4つ)


彼女のデビュー当時、”I Should Be So Lucky”を初めて聴いた時には、あまりの浅薄さに一発屋で終わると思ったのだが、その後もぐんぐん成長していったのはうれしい裏切りだった。そして気づけば、Kylieは、ポップアイドルとしてもゲイ・アイコンとしても、目の離せない存在になっていた。大人の色香を醸しながらアグレッシブに進んでゆく彼女の軌跡を総覧するには最適のDVD。

しかし惜しむらくは、肝心の音源がよくない。音圧が一定していなくて、非常に聴きづらい曲が何曲もある。ことに”Dit It Again”は、楽曲もPVもよい出来なだけに、音源の悪さが目立って残念。

そんな残念なところがあったとしても、収録内容は抜群。ヒット曲を映像で網羅していて、カイリーファン必携。

Body Language (2003)


(★★★★☆ 星4つ)




少し玄人好みのエレクトロサウンドで押した1枚。ライブもあったが、それもその前の華々しいカムバック時の凱旋公演に比べると地味だった。
しかし、セクシーな曲は彼女でしか出せない味で、このアルバムではより大人になったそれを存分に味わうことができる。”Slow”や”Red Blooded Woman”あたりは彼女のヒストリーの中でも必聴。

Fever (2001)


(★★★★★ 星5つ)




ヒット時代の輝きを完全に取り戻し、なおかつもっと輝いてみせた飛翔の1枚。完全復活を印象づけた”Can’t Get You Out of My Head”は言うに及ばず、楽曲にも恵まれ、彼女のポップな持ち味とダンサブルなスタイルが見事にマッチしている。シングルカットされた曲以外も捨て曲なし、ビデオも凝っている。

Light Years (2000)


(★★★★★ 星5つ)




クラブミュージックの流行を完全に見方につけた見事なカムバック作。1曲目の”Spinning Around”はあのポーラ・アブドゥルの作でびっくり。”Your Disco Needs You”や”On A Night Like This”は、AlmightyやMotiv8のキラキラ系(死語)サウンドのリミックスでヒットだった。Robbie Williamsとのデュエット”Kids”はそんな中ロックだが、いいアクセントになっている。

Mixes (1998)


(★★★★★ 星5つ)


Kylieの復活は世間的には次リリースのアルバム”Light Years”ということになっているが、実はクラブではその前からきざしがあった。ブリブリのハウスで有名な、Razor N Guido(このアルバムではRazor’n Goの名前になっている)や、Junior Vasquez、Trouser Enthusiasistsといったリミキサー達によるリミックスがゲイクラブではよくかかっていて、カイリーはそういった層においては、不遇の時代は実はなかったといってもいい。ただ、一般に認知されるには次作を待たねばならなかったが、これらリミックスのコンピレーションであるこのアルバムを聴けば、Kylieのポテンシャルがよく分かる。

Greatest Remix Hits 1-4 (1993-1998)

 

 

(★★★★★ 星5つ)

Kylieの人気は、クラブでのプレイなしではあり得なかった。4枚に収録されたリミックスは、各国で数限りなくプレイされたことだろう。オーストラリアでのみのリリースで、かつ1と2は93年、3と4は98年と何故かリリース間隔が空いてしまったものではあったが、Movers & Shakersのリミックスなど、CD版では入手困難なリミックスの集大成になっているので、Kylieのみならず、ハウス/クラブミュージックファンはおさえておきたいアルバム。