音楽レビュー Paul Van Dyk


Evolution (2012)


(★★★★★ 星5つ)

普段クラブミュージックでは圧倒的にハウスを聴いていて、トランスを聴くことはあまりない。コード進行が予定調和的で、耳に心地よくても音楽的発見がないなあと思わされるところがあるからだ。

しかし、少ないなかでもPaul Van Dykは響きとしての音が好きで、たまに聴く。硬いというよりはクリアな音と言う方が正確だろうか、抜けは良いが厳しくはない音で、清冽な世界を見せてくれる。そうした音だと、予定調和的なコードもスムーズさという点で好意的に見ることができる。トランスならではの、いつまでも浸っていたいと思わせる世界を作ることにおいて、Paul Van Dykは一番うまいのではないだろうか。
そして、トランスは大体寂しげな世界や退廃的印象のものが多いなか、Paul Van Dykの世界にはポジティビティーがある。そこがまたいい。ハッピーというと最近では軽薄さや脳天気さとほぼ同義だが(LMFAOやCascadaのような 場合によってはそれも嫌いではないが)、幸福ではあるが馬鹿っぽくないのがいい。

ハウスでは自分で作るノンストップ以外は1曲1曲が独立したミックスでないアルバムを聴くのが好きなのだが、トランスのこうした音を聴くと、1曲がすぐ終わってしまって夢が分断されるよりも、ずっとノンストップで1枚聴けた方がいいかなとも思うが、作品を理解するという意味では、このアルバムのような通常の作りが向いている。ともかく、この美しさはトランス好きならずとも体験してみる価値がある。(2012/6/7 記)