(★★☆☆☆ 星2つ)
原題は”El Bulli: Cooking in Progress”、といってもドイツの映画で、日本語表記ではエル・ブジと書かれることも多いスペインの人気レストランのドキュメンタリー、と、ちょっとややこしい。(エル・ブジの方が現地読みにやや近いから、ここでは以下「エル・ブジ」と書く)前から気にはなっていたレストランのドキュメンタリー映画ということで興味を惹かれて観に行ったが、取材対象のエル・ブジに対して興味を失ったのと、映画としての質がイマイチということで、観た後はちょっとゲンナリ。
もともとエル・ブジはモレキュラー・キュイジーヌ(分子料理)をやっている所で、あれは個人的に好きではない。ポスターの写真は映画中でも一番クローズアップされていた「皮が溶けるラビオリ」なのだが、皮はオブラート。その他、油と水を同時に注ぐ「カクテル」や、ミカンと氷を一緒に食べさせる皿、モレキュラー・キュイジーヌお得意の窒素冷凍の物など、新奇をてらうにはそれ以上ないだろう。
が、自然から得られた食材に敬意を払い、食に喜び(≠驚き)をもたらし、という点では、疑問に思う。食事なのか、可食物のお遊びなのか。それを本人達は大真面目にやっているから、映画を観る者には複雑な思いがする。
「人が『食』を追求した結果『食』の常識を突き抜けた料理は、果たして本来的な意味で『食』たり得るのか」という問い掛けが、映画のテーマなのだろうが、正直観ていて気持ちよくもなければ、食欲もそそられない。
映画の中身については上記のように素直に「観てよかった」とは言えないものだったが、映画の技法としても大いに疑問。まず、レストランのメニュー開発に焦点を置いたものだが、他のことがまったくお留守で、その近視眼的手法からはレストランの実体が見えない。
そして、ひたすらだらだらカメラを回しているだけで、メリハリがない。映画には観る者がいるということを忘れているようだ。
技術的にも疑問。皿へのクローズアップでピントが合っていない、人物の表情を捉えるのか皿に行くべきかを迷っているなど、基本的なカメラ技能が低い。いくらドキュメンタリーでは現場でどう動くか分からないから写し方が難しいとしても、もう少しマシにできたはず。そして音楽のインサートにもセンスがない。ドイツ人が料理を素材に取るというのが、無理だったのかも知れない。ドイツ料理に洗練やセンスがあまりないように。