映画レビュー 人生はビギナーズ (Beginners)



(★★★★☆ 星4つ)

まず、主人公の父親が母の死後ゲイだとカムアウトすることについて、日本語の作品解説だと「戸惑いながらも受け入れて」云々と書いてあるが、それは嘘。監督の実体験を元にしており、実体験には戸惑いがあったかもしれないが、それは映画には描き出されていない。映画中の主人公は、少なくとも作品を見る限り、それをあるがままに受け止めているように見え、その部分においては淡々としている。ゲイだと告白されてそれを受け止める受け止めないなどということについては、拘泥などしていないのだ。

むしろあまりにスムーズな父親の生き方に比して、「何にそんなに拘泥するのか」と観ている側がじれるくらいなのが、主人公とその恋人。ゲイの父親の登場は、むしろその主人公の生き様との対比を書きたかったがゆえの引き合いでしかなかったのかもしれない。一人暮らしをしている主人公の家に身を寄せると、今まで自分固有の領域で自由に暮らしていたがゆえに関係がぎこちなくなる、というのは分からなくもなかったが。

父親の年若い恋人役は、全然ゲイっぽくなかった。そして登場頻度・時間も多いのに、カラーが薄かった。それはそれでいいのだと思う。とかくゲイはキワモノ扱いされがちで、毒々しくてオネエっぽかったりする描き出され方をしたりすることが映画の中でもいまだ多いが、こういう薄いゲイというのはかえって救い。

他に全体として印象に残ったのは、画面の色が抑えられていたこと。主人公の車は古いメルセデスのターボディーゼルだし、ヨーロッパ映画のデリケートさを出したかったのか、アメリカ映画にしては上品な印象。そういえば、ヨーロッパっぽさといえば主人公の恋人がフランス語を母国語とする設定のはずが、どう聞いても英語の訛りは東欧系だった。