ヴーヴクリコの本質を極めた一本といえばトップキュヴェのLa Grande Dame。クリコイエローのビビッドさや、ドンペリモエヴーヴと3大メーカーとして名を馳せるところから、ヴーヴクリコのイメージといえば世間的には華やかさであったり、ステータスの象徴だったりするが、複雑さや骨太さが実はヴーヴクリコの本質ではないかと思う。肖像画に残るマダムグリコの風貌が、華奢な美人とは真反対であるように。あるいは彼女の恐ろしいほどに辣腕であった経営手法のように。
過去何本かLa Grande Dameをヴィンテージ違いで飲んだが、ここへの記録を怠っていたので、それぞれの味わいを詳細に思い起こすことができない。が、2015は過去のLGDに比べ、さらに洗練された印象がある。ドサージュが6g/ℓと、エクストラブリュットに迫る少なさであることはその印象に寄与しているだろう。セパージュはピノノワール90%シャルドネ10%。味わいの一つの特徴を公式サイトでは緊張感という言葉で表しているが、これは冒頭に述べた骨太さに通じるもので、それらはピノノワールの比率の高さから来ているように思う。
真に自分に自信のある人が人と接する時ににこやかであったり、歓迎する姿勢を取ることに躊躇のないように、LGD 2015はすっと入り込みやすい香りの華やかさとフィネスで歓迎してくれる。パッと明るい花の香りや洋梨、軽い柑橘系のタッチ。色味もペールゴールドで、ピノノワール9割と聞いて想像するよりは淡い。しかし、奥底にある奥行きの深さは最初から感じられる。
フードペアリングも、優秀なホストがもてなパーティーのように鷹揚。フォアグラのパテのように上質なシャンパーニュと合わせるのが定番の食材も、ビーツとキヌアのサラダのような食材もウェルカム。
杯を重ねるに従ってしかし華やかさ一辺倒ではない顔が見えてくる。森の土草のようなアーシーな感じもあれば、ドライハーブのニュアンスもあり、白い花々からもっと色味を帯びた花へと変化する。そして酔い口にもパンチがある。口当たりの良さに飲み進められはするが、気がつけばすっかり絡め取られるようなパワーがある。
その変化や底力が、イメージ戦略とは裏腹にがっちりと揺るがぬメゾンの堅牢さと歴史を感じさせるところで、これぞVCと思わせる。2015のラベルはイタリア人アーティストパオラ・パロネットによるデザインで、明るく、陽光が似合う。今回そんなイメージに合わせようと、テラスに席をセッティングして飲んだのだが、明るさの奥に支える堅牢さを感じた。