ブックレビュー サン・テグジュペリ


夜間飛行


(★★★☆☆ 星3つ)

さしたる感銘も受けずに何となく読み終えてしまった。最初、時代が違うからだろうかなどとも思ってみたが、自分の生きている時代とは時代が異なる作品を読むときには、当然その時代時代の事情を斟酌して作品の舞台に入るので、ピンとこなかったのはそのポイントではなかろう。

では何かと考えるに、この物語は勇気の物語であると裏表紙やら書評やらで謳われながら、南米のパンパのように、自然の他にはあまりにも何もない荒涼たる舞台での展開が、人くささを薄めているからではなかろうか。
この本は、勇気に主眼があるのではなく、例えば冷徹に仕事をこなさねばならぬ鉄のミッションを背負った人の、鎮静なあり方をじわりと描き出したところにポイントがあるのだ。そう考えると、いくらか救いが出てくる。
しかし、それでも何か本が心に入ってこなかった。堀内大學の訳も美しく、文も秀麗であるのに。そこはやはり、刺激に慣れすぎた現代人が読む時の、奥ゆかしさを欠いた心がいけないのだろうか。本を楽しめることを期待していたのだが、楽しめなかった。残念だ。