ブックレビュー 小川 糸


食堂かたつむり


(★★★★☆ 星4つ)

あまりこの人のことを知らずに読んだ。いかにも女性向け、しかも若い人向けの文体で、主人公もそんな年齢設定。難しい言葉は使わず、文章も行変えが多くて、字面が白い。吉本ばななを思わせるが、ハッとするような言葉使いはほとんどなくて、言葉は言葉そのものを楽しむためではなく、ストーリー運びのための手段であるようだ。しかし、物語を読みたいと思っていたので、それは特に悪いことではない。

食堂だけに料理が出てきて、料理小説と言える。そのメニューは和洋エスニックとさまざまで、ここもいかにも若い女の子が憧れそうな、ちょっとお洒落とか、エスニックとかそういったエッセンスが盛り込まれている。いいのだが、小説の中の素材としては、よくお勉強して盛り込んだのだろうな、という、若干消化(昇華)されきっていない=作者の身に等分でない感じがした。

物語はこの手の軽いものらしく、ハッピーエンドといえるのだが、主人公と母の確執が和解を見る方法が、いかにも安っぽいというか、デキ過ぎているというか、実際に親と確執のある人間の心の葛藤はそんなものではないとフンと鼻で笑ってしまいそうな感じではある。でも、まあこういうお話もあっていいのだろう。嫌な感じはしない。ちゃんと最初からプロットを練って書いたのだろうな、と思わせる設定もあって、そのあたりの誠実さがあるからだろうか。

この文庫本には、表題の『食堂かたつむり』以外に特別編の『チョコムーン』というゲイが主題の作品が収録されている。こちらは「ああ、女ってこういうのに憧憬を抱きがち!」と、リアルなゲイの目からするとちょっとげんなりしてしまう。完全な蛇足で、これについてはちょっとな、と思ってしまった。