まずは付き合い未満の最初の体験から。
梅田の書店で彼とは出逢った。俺が17歳の時だった。1984年のことだ。付き合いを期待していたのではなく、一過性の性的な逢瀬だけを期待して、俺はゲイ雑誌の置かれているその書店に行き、人目を気にしながら本を手に取ったり、あるいはそのコーナーの近くで興味もない他の本を読むふりをして、誰かがゲイ雑誌を手にしないか期待して待っていたりした。
どちらが先に本を手に取ったのかは覚えていない。ともかく、そこで彼とは知り合った。当時の「今風」だったサーファールックで、爽やかだった。知り合ったというと綺麗すぎる表現だ。お互いがゲイで性的に興味を持っていると確信し、本のコーナーを離れ、本屋の入っているテナントビルのトイレで性的接触を持った。
ネットやメールはおろか、ガラケーさえない時代だ。電話番号を交換して、その後も数度会った。個人の電話番号ではなく、家の固定回線の電話だ。電話がかかってきて親から友達かと聞かれても、そうだとしか答えようがない。
確かその後、梅田の近辺のホテルにも行った気がする。今からすると一見して未成年同士、しかも男同士で、その時代によくホテルに入れたものだと思う。むしろその時代だからこそ可能だったのか。
ともかく、数度会いはしたが、俺は親に「受験期なのだからあまり遊びに行くのは云々」と諭されて、自分がさほど気持ち的に入れ込んでいなかったせいもあり、かかってきた電話の何度目かで、もう会う気はない旨伝えて、その関係はあっさり終わった。ひと月もしない関係、いや、関係ともいえない接触だった。相手がその時泣いたのか、何と言ったのかさえ覚えていない。ただ、別れを悲しんでいた声の調子だけは覚えている。
ゲイ的にはよくあるだろう、あまりに儚い体験だったが、ゲイで、特定の人で、連絡先をお互い知っていて、複数回会ったのは、その人が初めてだった。名前も覚えていないが、確か同い年なのにもう堂山(大阪のゲイバーが多くあるゲイタウン的地域)に出入りしていて、遊び慣れてはおり、ゲイコミュニティーとの接触があった人だったと記憶している。これが、俺の付き合いゼロ号だ。