(『ダークサイド I-9 死んだ父と遺った母』からの続き)
厄介
性格の相当ゆがんでいる母だが、父の死後はそこに粘着が加わり、さらに厄介になっていた。大阪から妹と同居で東京に引越し、その後妹が結婚してからは妹夫婦の近くに一人暮らしだったが、何かにつけて自分の暮らしを惨めだ惨めだとこぼし、妹に嫌味を言っては妹夫婦の生活に干渉する。妹もほとほと疲れてしまっていた。俺に接触する時にも、ネガティブな感情表現なしではいられない様子だった。急転直下の人生を見ると、当然悲嘆にくれても当然は当然なのだが、母のそれまでの態度=人は責めても自分の非は認めない・人を極端にコントロールしようとする・自分は常に他人の犠牲者という姿勢= は、その不幸の招来に自己責任があるともいえる。
俺はパートナーの死を経験しているが、とても母に同情する気にはならなかった。
思うに、父が妙な背伸びをして自分の能力以上の経済規模の拡大をしたことも、母に攻められたからこそとも言えるし、父が事務所の事務員とデキたのも、そんな強気一点張りでの母に嫌気がさしたのではないかと俺は思っている。
俺も、母の態度には疲れてしまって、人間性を侵食してくる作用から自分を守らなければならない必要を感じた。何があっても折れず譲らずの態度をする一方で、依存してくる。離れていてもその姿勢は止むことがなく、こちらが如何に仕事で疲れきっていようとも自分の用事でおかまいなしにかけられてくる電話には、脅威を感じた。不可避的に電話に出られない間にも、1時間に3度も4度も携帯に着信があって、しまいには電話の着信があると心臓がドキドキするような事態にまでなった。ストーキングに等しい。こちらが切らない限り、どこまでも母は追いすがってくる。そして、人を侵食し続ける。これにはもう、断つことしかない。
関係を断つために電話は着信拒否設定をし、メールはフィルタリングした。ちょうど、現パートナーと一緒に住むことになって引っ越したので、新居の住所は知らせなかった。妹はまだ母と連絡のやり取りが一応あるようだったが、妹には新住所を告げないよう、口止めをしておいた。
再婚
こんな状況で母の身辺に変化があった。携帯メールはフィルタリングしていたが、他のPCアドレスではまだフィルタリングする前に、PCアドレス宛てにメールが届いた。再婚するというのだ。お見合いシステムかどこだかで知り合ったのだったと思う。
この結婚は、喜ばしいことだった。何故なら、子供達に精神的に覆いかぶさる機会が減って、興味対象がそちらに行くからだ。結婚生活はできるだけ長続きしてほしいものだ。独りになるとまた元に戻るだろうから。
そして、新しい相手を同じ方法で食いつぶさないようにしてくれるように祈る。メールには返事をしなかった。そしてそっちもフィルタリングを設定し、受信拒否した。母が結婚相手と暮らしている場所は知らない。