無題(残念がゆえに)


先週、新宿二丁目にあるClub ArcHのリオープニングパーティーがあって行ってきた。元バーレストランだった所を改装してクラブにしたとかで、今後のクラブとしての運営は大変そうだなとの印象を受けた。

リオープニングのことでDJ陣は豪華、音に期待が持てそうと思って行ったのだが、施設的に苦しい音だった。EV (Electro Voice)の吊り下げスピーカーだけで鳴らしていて、音が軽すぎる。フロアで普通に会話ができてしまうほどなのだ。せめて据置のウーファーがほしかった。防音対策が不全で、音場設計も途上なのだろうか、天井を見るとグラスウールの防音材のつめ込まれた様がむき出しだった。

急ごしらえでやらねばなかったとか、ラウンジっぽい雰囲気にしたかったとかいう事情も、とあるつてから聞いたが、それでもクラブはとにもかくにも音。クラブである以上はラウンジっぽいとしても、音がダメならクラブとしてダメだ。

そして、音が踊る気にならない音なのと同じく「え?」と思ったのが、フロアの狭さ。うなぎの寝床の長方形型の奥にフロアがあるのだが、バーレストラン時代のカウンタースペースがフロア中央部を圧迫していて、何とも狭い。20人も踊ると苦しいだろうか。

ゴーゴー(とは言われているものの、踊れず、曲を知らず、体ができていない、罰ゲームのような何か)の馴れ合いのステージングに、DQ達も使い回しの衣装で何となくといったダレた雰囲気に、やりきれないものを感じた。それは、何かの残滓や、かつての輝きをもったクラブの亡霊といったものでさえなかった。

入場時のノベルティTシャツ。
入場時のノベルティTシャツ。

もうクラブという時代ではないのだということは、何度も自分自身に言い聞かせてみるのだが、クラブの輝きとテンションとエネルギーを感じて生きてきた世代としては、クラブを愛するがゆえに、その様子はいかにも残念すぎた。名を変えつつも連綿とやってきたクラブのリオープニングに、一縷の望みを持っていただけに。

一緒に行っていた友人達も、微妙な面持ちだった。朝まで耐え切れず、ほどほどの時間で切り上げた。
車で行って飲みもせず、シラフで帰りに車の中で硬い音のハウスを聴いた。クラブと名付けられた何かを見てしまった後に、4つ打ちの音は味気なく聴こえるだろうと思ったが、そんなことはなかった。まだ生きている音は世の中にある。車のオーディオ装置でさえ、ちゃんと聴こえるものは聴こえる。

では何がいけないのだろう。人? 時代? きっとあの場所の設計だけではないだろう。「クラブはどこへ行くのか?」という疑問よりも、「もうどこへも行かないどん詰まりなのだろうか」という、あまり肯定したくない気持ちを、服や髪にまとわりついてしまったたばこの臭いとともに持ち帰った。