自分の土俵でしゃべる時ほど気をつけなさい


専門バカ、という言葉がある。普通は専門分野については詳しいけれども他には昧(くら)い人、という意味だが、もう一つ専門バカという語に意味を与えるとするならば、自分のフィールドで人と接する時に自分が偉いと勘違いしてつけあがる赤恥晒し、といったところだろうか。

日曜日、例によってワインマーケットパーティーに買い物に行った。前に行ったのは6月、衝撃のワインショップを経て、店のはしごをした時以来だった。それ以降、ちょこちょこ買い足しはしていたが、セラーに空きが出るようになってきたので補充しなければと思っていたところ、お得意様向けシークレットセールの案内が来ていたのでじょにおと赴いた。

ビンテージカーブでワインを物色していた時、声をかけてきたソムリエの態度に気になるものがあった。得々と話すのは癖だろうからしょうがないとして、いわゆるタメ口でぞんざい。それはちょっと、と思いながら、人をたしなめたりするとその場の雰囲気を気まずくするので、そこでは出さず。
しかし後々考えるに、こっちは客である。しかも必需品で欲しくてしょうがない物が需要過多で「売ってやる」状態ならまだしも、嗜好品でライバル店も多い業界、しかも一般的には3000円以上するワインをウン本買う客なんか上客の部類なはず。それに対してあの態度はなかろう、と、月曜の深夜にWeb経由で一言言っておいた。便利な時代になったものだ。

伝えた骨子は、

(前略 行った経緯について)
ソムリエの接客態度が大変失礼で不愉快でした。
ビンテージカーブにおられた方です。
私は実年齢よりかなり若く見られるせいか、
いわゆるタメ口でぞんざいな口のききかたをされ、
ビンテージワインを売るような態度ではないと感じました。
よもや(こちらが)年下であったとしても、こちらは客です。
そうした態度は甘受すべからざるものがあります。
(中略 姉妹店についても指摘)
猛省のうえ、厳に態度をあらため、
ソムリエはゲストにワインを紹介するガイドとして
サーヴする存在であると心得ていただきたい。
(後略 要回答の旨)

というもの。接客を受けた時に、俺としては
「ハハン、俺が年下だと思って与し易しと思ってるな、実際7、8は俺が上だろうに」
と感じていた。他にも、ありがちがだが、客のニーズを読まず、自分のフィールドで話すことだけに得意になっている節もあった。

日が明けてから午後には回答が来た。引用は略。引用転載の付帯条件は設けられていないが、このケースでは書くべきでないだろう。至極まっとうな謝辞だった。こちらとしては、客に言われてそんなことに気づくのは最低だな、と思うが、まあしょうがない、俺より年下だと叱られて言われないと分からない世代だったりもするから、これで改められればよしとしよう。二度と使わない店ならケチョンケチョンに言ってオシマイだが、店としては非常に有用、今後も訪れるだろうし。

ちなみに今回の買い物は、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノやバローロなどのイタリア物と、スペイン物を中心に。
ちなみに今回の買い物は、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノやバローロなどのイタリア物と、スペイン物を中心に。

ソムリエというのはもちろん資格を持った専門職。もちろん尊敬に値するが、それはその専門知識を活かして客に仕えてこそ意義のあるもの。昔から身の回りにはいわゆる先生と言われる人がたくさんいて、それがゆえにその人達の非常識も多く知ったうえで言うが、自分のフィールドで話をしだした途端に尊大な態度に出る者ほど、みっともなく、また人から不快感を持たれる者はない。本人、自分に尊敬を集めたいがゆえか、その自信から出たその態度は、完全に逆効果なのだが、気づく人が少ない。川柳で言うところの

先生と 言われるほどの バカじゃなし

というやつだ。自分のフィールドについて意見を求められたり、一席ぶつならば、自分の専門を客観視して、話相手にはどれほどの理解力があり、何を求めているのかを見計らったうえで、聞き手に貢献すべく話をするべし。
また、早く距離を縮めたい私的な関係なら、年齢の老若関係なくわざとタメ口をきくのも手だろうが、日本語には語調を変えて敬意を示す言語体系が備わっているのだから、そうでなければたとえ相手が年下に見えたとしても、距離感を常に気づかった丁寧な言葉遣いが必要な場面はままある。それを忘れてはならない。

さて、今度行ってみたら↑の店はどうなっているかね。