この世に永遠も絶対もないことを身近な人間から知る


カスタードクリーム、それは永遠の悦楽。まるでヴィーナスが貝からいでてその完璧な美と肌を披露するように、パンやシューの中からむっちりと溢れ出、あるいはタルトにおいてフルーツの王冠を戴いて敢然と顕現し、バニラの官能的で芳醇なエキゾチシズムとまさにクリーム色のつややかな輝きを誇りながら、なめらかに味わう者の舌にまとわり、とろける甘さによる統治と支配を艶然たる微笑みでもってたからかに宣言する。まさにクリームの王にして王のクリーム。その魅惑、その存在感、その至福。誰がその味覚の頂点に抗うことができるというのか。

が。この世に、その陶然たる甘美を至高といただかない不敬な者がいたのである。傲岸不遜にも、私は喜びが分からない、と、皆既日食を畏れる密林の王族を科学が嗤ったように、天地創造主への畏敬よりも先史と進化論を民に説くように、言い放つ者がいたのである。

その言葉を唐突にも聞いたのは、昨夜、しかも夜更けてであった。道すがら、我が家へ歩を進めながら突然聞いた脳を射たその言葉に、俺は、夜の闇が一瞬にしてその群青を漆黒に深化させ、心臓の早鐘が最期の一拍へと近づくのを感じずにはいられなかった。そして、なおも足元をぐらつかせただけでは足りず、膝をアスファルトで摺って皮膚を破らんとしさえしかねない衝撃の事実としては、それが愛する者が声帯を震わせ、唇を動かして空気をそう振動させたことにより起こったということだ。

じょにお。なんたることだ。カスタードクリームの誘惑を断ることのできる人間、そんな傲然たる冷たい鐵のような存在が、よもや一番ちかしいところに見出されようとは。フーバーダムの威厳と、岩盤を削るイグアスの怒涛と、K2の孤高とを併せ持つ者と、俺は今まで同衾し、笑い合い、杯を重ねてきたのである。否、それらは完了形ではなく、これからも続いてゆくのであるが、世界は一瞬の空気の振動で、全く変わってしまった。俺は銀河の彼方から突如降ってきた電波が有意的信号であるのみならず、即座にその意味を理解してしまったこと=異者の存在を知ってしまったこと=をおそれおののきながら、弱く泳ぐ眼で夜空を仰いだ。東京の空に、星はほとんど見えなかった。意を決して横を向くと、じょにおが、まるで何もこの世界が変わらなかったかのように、笑みを携えてこちらを見ていた。その破顔は、カスタードクリームのようにやわらかく甘かった。それなのに、この男はカスタードクリームを愛さないのだ、嗚呼!