癌の記録 入院・手術


手術直後~翌日

ここから翌日午前中までが一番大変だった。とにかく体を動かすことができない。ずっと寝ていて背中が気持ちが悪いので、時々わずかによじる位。そして、説明の通りに色々繋がれているのだろうなとは想像するものの、触って確かめることもできないし、そもそもそういう気にもなれない。まるで体がバラバラになって、自分のコントロール外になってしまったようだ。昔見たゴアビデオで、事故に遭って路上に倒れてなお自分の離れた部位を引き寄せようとする人を思い出した。

各所辛くてならなかったのだが、一番まいったのが、口中の渇きだ。寝ていて、しかも中咽頭を手術しているので唾を飲み下すこともできないが、粘液質は分泌されるので、とても息苦しく、不快で、辛い。時折ナースコールを押して口の中を、水を含んだ太い綿棒のようなもので湿らせてもらうのだが、こっちとしてはその粘液質を拭ってほしいが、そういう意図が伝えられない。こんなことでしょっちゅう人を呼び出すのも何かと遠慮がちになる気持ちと、気持ちが悪いので何とかしてもらいたいという気持ちとのせめぎあいでずっと過ごすことになる。
そこで、寝てしまいたいと思うのだが、体のエネルギー消費は収支があってしまっていて、眠りにもつけない。そして、血栓予防の脚の加圧が常時動いているので、それが眠りを妨げる。左右交互にずっと脚を圧迫される感覚があって、眠れやしない。眠らせず、全身を拘束して嚥下を妨げるというのは拷問に使えるな、などと思いながら一晩を過ごす。

朝がやってきても食事はやってこない。もちろんこんな状態だから、栄養点滴で済ますのだ。術前には鼻からのチューブかと思っていたのだが、手術前に人に聞いたところによると、感覚として気持ち悪いらしく、それだと嫌だなと思っていたから、むしろ点滴は歓迎。食べる気にもならない訳だし。

しかし、そんな状態での診察、これが問題だった。明けなら医者がベッドに来て診察すればいいものを、ナースステーション内に、いろんな管が繋がった状態で歩かされ、背もたれもない丸椅子で座って並ばされ、医者(執刀医ではなく、担当科の下っ端)の診察を待たされる。しかも医者が来ない。
並んでいる患者たちも、手術を受けて間もない人たちばかりで、ひどい有様だ。まるで晒し者である。俺の状態が一番ホヤホヤで凄い訳だが。導尿カテーテルが繋がったまま、自分の排出した大量の尿がプラバッグに溜まり、点滴等と一緒に提げられているのを目の当たりにしたまま。尿の臭い。それが、術後初めて認識した臭いだった。そして、それは恥辱だった。

異変はそこで起きる。喉の不快は相変わらず。外は台風の接近で気圧が低い。それに、体の自由がまったく利かなかったところでいきなり起こされ体をもたれかけさせることもできない丸椅子にいることの不安定。そこへ持ってきて、尿を目の当たりにして臭いもする。気分が悪くならない方がおかしいというものだ。途端に吐く。が、胃の中に物は入っていないので、だらだらよだれを垂らすばかり。ステーション内が慌ただしくなり、車椅子に移され、ベッドに戻った。診察はそこですることになった。最初からそうしとけよ!!と怒りの感情が沸く。これが術後初めての怒りだった。どうやらそんな程度のバイタリティはあるらしい。

診察に来た医者に嫌味の一つも言ってやればよかったのだが、そこはまだ術中、そういう気力がなく、口の状態からして満足に発話することもできず。ただ、手術はうまく行っていて、手術痕もきれい、口中の縫合からの出血もないとのこと。その1分ほどのためにあそこまで無理やり動かされたのに、あらためて頭にくる思いだったが、術後すぐ歩かせようとするのは、向こうの言い分としては回復を早めるためとか。兼ね合い、というものがあると思うのだが。(次ページへ

2 Replies to “癌の記録 入院・手術”

  1. こんにちは❗
    その後、如何ですか❓
    ブログを読んでいて、大変な手術だったんだな改めて思いました。ちょっと僕が同じ立場になっら、決断できないかなと思いました。
    チンチンの件ですが、やっぱり何事も笑いに変えるというのは、大事だと思いました。それが大変であればあるほど。
    かなり昔、胃癌の手術を受けた友人が術後がまた大変だったと話していたことを思い出しました。暫く大変かと思いますが、どうぞご自愛下さい。

    1. はい、今回の手術の回復はまずまずで、食事に関しては何でも食べられるようになりました。
      後日対処が必要なことも出てきてしまったのですが、それはまた術後のこととしてまとめて書こうかと思っています。
      チンチンの件は看護師さん、よほど苦手分野で照れ隠しが裏目に出たのか何なのか。こっちが冗談としてやり過ごす手に出る他ないですね。
      いつもお気遣いいただき、ありがとうございます。

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