音楽バブル世代


PCに入っている音楽ライブラリのうち、昔AAC 128kbpsでエンコーディングしたものの音質が気に入らず、最近になって可能なものは入れ直している。そうしたもののうち、繰り返し多く聴くのが80年代末~90年代前半のもの。当時CDで買い、あるいはアナログ盤で持っていたものをCDで買い直したりしたものだが、当時は新しい音がどんどん出てきて、音楽を聴くのが楽しかったものだ。

80年代中頃の音楽、いわゆるMTVミュージックはポップロックが多かったが、そこから90年代に移ってゆくにつれてブラックミュージックがチャートを席巻するようになった。R&Bではニュージャックスイングが台頭した。ともかく派手で押し出しの利いた音で押しまくるのが特徴だ。ハウスミュージックではディスコやテクノから進化してスタイルが確立されてきた頃だ。



ちょうどそれはバブル経済期とも符合する。バブルの終焉とともに、音楽のスタイルも音数が整理されてきて、いわゆるレイドバックな感じや、シックだがゴージャスできらびやかでもあったクワイエットストームに替わってcoolといった言葉が、ひとつのキーワードになり、90年代後半にはR&Bに関する限り、音はすっかりおとなしくなった。かつては激しい音でならしたアーティスト達も、そうしたスタイルに転向していった。


バブル期にゴージャスな音で成功したアーティストはこの変化について行けず、一部のアーティストはそのスタイルを堅持したがゆえにマーケット的に成功から外れる形になってしまった。


何故こんな話をするかというと、その豪華な音の当時にアルバムを買って、好きだなと思った人の後発アルバムを買っておらず、「これ、なんで買わなかったんだっけな?」と今思ってあらためて試聴したみたりすると、音はより現代に近くなっていて今の耳には馴染みやすいはずなのに、やっぱりあまりとらえどころがないなというか、自分にとってはアピールするところがないなと思ってしまうものが少なからずあるからだ。

正直に言おう。俺は90年代前半のR&Bのゴージャスな音が好きだった。いや、好きだ。「マーケット的に成功から外れる形になってしまった」として挙げた3枚のアルバム例は、いずれも愛聴している。当時の過剰になりすぎた音作りから、その後曲や声により傾聴させえるために音がシンプルになっていったという流れは分かる。が、90年代前半の音楽は、豪華な音の面白さだけで成り立っていたのではなく、そこにまたパワフルだったりキュートだったりするボーカルが乗り、その相乗効果で耳を惹きつけていたことに比べると、その後の音楽の痩せ加減はもの寂しい感じがする。

一時期、もう新しいメロディーは生まれないのではないかという声が強く上がった時期があった。それでもまだ新しい曲は生まれ続けている。しかし、内在するエネルギーのみなぎりを感じる曲は少なくなった。圧倒的な喉の強さとボイスレンジを披露していたR&Bシンガー達は影を潜めて、凡庸な歌い手だけがマーケティングに則った音作りに乗っかって出てくるのを聴くと、音だけでなく、音楽自体が痩せてしまった気がする。

時代が巡るにつれて、またゴージャスな音が流行り、聴くような時代はやってくるのだろうか? 新しい音を求めて、意識的に21.1世紀以降(2010年以降)の音を聴くようにしているのだが、気がつくと音量を上げて繰り返し聴くのは、昔聴いた曲が多い