Billecart-Salmon Brut Rosé きりりと気品のシャンパーニュ


クリスマス用(結局こだわっていないとか何とか言いながらこじつけて飲む 笑)、お年越し、正月と3回の機会に用意したシャンパーニュがあって、そのうちいつどれを飲んでも構わないので、クリスマスディナーにどれを飲むのかはじょにおに選んでもらうことにした。

そして合わせたのはこれ。

Billecart-Salmon Brut Rosé
Billecart-Salmon Brut Rosé

Billecart-Salmon Brut Rosé(ビルカール・サルモン ブリュット・ロゼ)。Billecart-Salmon(ビルカール・サルモン)はメゾンそのものが有名なのもさることながら、その中でも名を馳せるのはロゼなんだとか。ロゼで有名というとLaurent-Perrier(ローラン・ペリエ)のトップキュヴェであるアレクサンドラ・ロゼらしいのだが、Billecart-SalmonはLaurent-Perrierに一目置き、自らの造るロゼを「二番手」と称しているようだ。
それぞれ作り方は違う。Laurent-Perrierではロゼの色のもとになる黒ぶどうを破砕し、ジュースに果皮を浸して、ちょうどいい頃合いで果皮を引き上げ、色づいたジュースをシャンパーニュの基となるワインの醸造に使う。これをマセラシオン(macération)というのだそうだ。それに対し、Billecart-Salmonではシャンパーニュ地方だけに許されている赤ワインと白ワインを混ぜる方法=アッサンブラージュ法によってロゼを造る。

フランスの他の地方ではアッサンブラージュでロゼを造ることは法律で禁じられていて、ロゼはマセラシオン、あるいは赤ワインの原材料となるぶどうを白ワインの製法で醸す(=破砕した原材料からジュースを得る前に予備発酵される赤ワインの製法でなく、破砕した原材料を絞ってジュースを得てから発酵の過程に入る)方法で造られるのだ。しかし、シャンパーニュ地方はもともとぶどうが育つ北限で生育条件が厳しく、作柄や収量が見込めない場合もあるから、シャンパーニュでは混ぜてもいいでしょう、というのが歴史的な成り立ちらしい。

マセラシオンでのロゼは色を一定させるのが難しく、そのためあまり一般的でないらしい。全体の約5%にすぎないのだそうだ。このマセラシオン、果皮を引き上げる動作に着目するのとは逆に、果皮破砕の原料から果汁を抜くという動作に着目すれば、セニエと呼ばれる。
セニエとはsaignéと書く。瀉血の意味だそうで、元々は赤ワインを作る時に濃いぶどうジュースを得るために、圧搾前の果皮混濁の原料から出たジュースを一部抜いてしまう動作が瀉血のような作業であることからこう名付けられたそうだ。つまり、マセラシオンとセニエとは得られる物が同じだから同義と言われるようだが、着目する動作主体が果皮かジュースかの違いで、2つの言葉が存在するということだ。果皮を浸けて引きぬく=マセラシオン、果皮の浸かったところからジュースを抜き出す=セニエ、ということ。あまりこの用語の違いをわかりやすく書いてあるウェブページはないので、ここに整理して書いておく。お役立ち。(笑)

アッサンブラージュでは、原材料のワインの比率を決めてしまえば色は安定する。果皮を引き抜く、あるいはジュースを抜くタイミングを見計らわないとロットごとに色が違ってしまうという、時間による手間というか危険を侵さなくて済むから、当然大量に造るならアッサンブラージュの方が有利。
このようにシャンパーニュのロゼは色付けをすることを目的に混ぜることによって造られる文字通り色物だから、シャンパーニュ通は飲むなら白がほとんど、各社のトップキュヴェも軒並み白、ということに落ち着く。混ぜる基のワインが上質ならアッサンブラージュだろうとマセラシオン(セニエ)だろうといいのかもしれないが、マセラシオンを採用している所はアッサンブラージュのロゼを下に見ているようだ。ルイ・ロデレールの副社長来日ディナーでも、某プレミアムシャンパーニュDのロゼは混ぜて作っているがうちのロゼはマセラシオンだ、とアッサンブラージュのロゼを引き合いに出していた。

話は本題に戻って、Billecart-Salmon Brut Rosé。ロゼがアッサンブラージュながら高い評価を得ているなら、試してみようと買ってみた。色付けの素となるピノ・ノワールの赤ワインが全体の10%入っているらしい。

グラスに注ぐと、その色合いがまず目を引く。というのは、ロゼ=ピンク、と思いがちだが、これは単純なピンク色ではないからだ。

グラスに注いだ色合い。
グラスに注いだ色合い。

オレンジがかったサーモンピンクに近いが、ロゼと聞いて想像するような単純なピンクではない。エチケット(ラベル)やミュズレもそうした微妙な色合いになっていて、その色に近い。では味わいは、というと、確かにロゼらしい赤すぐりや木苺のようなフレイバーもあるが、ロゼといえばそうした赤い果実のフレイバーで片付けられがちなのに対し、これはもっとシャンパーニュらしい本質的な味わいがする。そして、ロゼにともするとありがちな果皮の嫌な渋味はない。
「へえ、これはいいね」と、じょにおと二人して気に入って、食事とともに飲み、そして食後のチーズとも合わせたが、ただ優しいだけではなく、どこか品の良いキリッとした感じもあり、しかし尖ってはおらず、なるほどこれは評判がいいだけのことはある、と思わせた。
そういえば、Billecart-Salmonは、Brut Réserveを自分の去年の誕生日の時にレストランでも飲んでいた。シャンパーニュに求めるものはダイナミックさであったり、華やぎであったり、やすらぎであったりと色々だが、シャンパーニュにはビールのようなスカッと感は全く求めていないなか、Billecart-Salmonは我々の好みの中ではシャープな物の最右翼。しかし、それはとてもエレガントで、 Billecart-Salmon Brut Roséは好みにも合うし、他人にも勧められるような素晴らしさを感じさせた。何かロゼを探しているなら、選択肢に入れておいていい1本。