犬のこと


犬を飼いたいと思っているのだが、踏ん切りがつかないでいる。資金的には初期投資も、飼い始めてからの維持費も問題ないと思う。それに、飼ってしまえばなんとかなるとも思っているのだが、踏み出せないでいる。

ニューヨークに住んでいる友人HのパートナーTがグレイハウンドを飼っていて、その犬の写真がメールを整理していたら思いがけなく出てきた。無断で載せる訳にいかないので、ここで見せられないのが残念だが、その犬はドッグレースの競争に出ていた犬で、レースでお役御免になった後は屠殺されてしまうのだと聞いて、それを友人のパートナーTが引き取ったのだそうだ。Lと名付けられたその犬は、最初は人間不信でおびえていたらしいが、次第に心を開き、Tにも友人Hにも慣れ、今ではベッドでTとHが寝ていると、間にグイグイ入ってくるのだという。

俺が高校に入った頃、実家で犬を飼っていた。マックスという名のシェルティで、正式名をマキシミリアン・ザ・セカンド・マース・オブ・トーゴ・エンジェルと言った(『マース・オブ・トーゴ・エンジェル』は血統書に記載されていた名前)。

長野にあった別荘近くの散歩道を駆けてくるマックス。今は書斎の写真立ての中。
長野にあった別荘近くの散歩道を駆けてくるマックス。今は書斎の写真立ての中。

マックスを飼って、とてもよくできた犬だったからではなく、犬自体の性質であるあのひたむきさや感情表現の豊かさに、どれくらい心が潤ったかしれない。

さて、そんなかつて飼っていた犬の思い出や、友人のところで飼われていて幸せにしている犬のことなど思うと、やはり犬を飼いたい気持ちはふつふつと湧いてくるのだが、やはり今俺とじょにおとで飼うとなると、フルタイムで仕事を持っている二人だから、犬の世話をどうやって見るかは熟考しなければならない。

犬はとても人との繋がりを大事にして、逆に言うとそれなしでは心身ともに不具合を生じさせかねないほどの生き物だから、猫のように日中一匹だけにしておく訳にはいかない。少なくとも、子犬のうちは。俺は1時間かけて遠く大手町まで通勤していて、そこに犬を連れて行くことは到底不可能だ。となると、我々の暮らしているマンションの近くで仕事をしていて、昼間は実家で犬の面倒を見てもらうことも不可能ではないじょにおが実家に預けるということになるだろう。

しかし、俺が帰ってきたら犬を引きとってマンションに連れ帰るにはどう説明をつけるか? それに、近所に住んでいれば、俺が散歩に連れていたら当然見かけることにもなるだろうし、そうすると「なんでじょにおの犬をあの人が?」という話にもなる。俺とじょにおとの関係性について明確な説明が必要になる訳で、そうすると犬を飼い始めるということは家族を形成するような心構えをしたうえで、じょにおが家族にカムアウトする必要も出てくる。

じょにおは家族には弟を除いてカムアウトしていない。「いつでもいい」と言いながら、やはりそれなりの心の準備が必要なようで、 機を見計らっているようだ。しかしお母さんとの関係を見るに、前は結婚を口うるさく言われていたのが、最近では、別に結婚しなくても母子のよい関係が築かれていればそういうのもアリ、という話になっているようだ。そして、俺と一緒にいる所もたびたび目撃されていて、「あなたいつもあの子と一緒ね」と言われているようだ。

となると、順番はどうなるか分からないが、犬を飼うこととカムアウトは不可分で、カムアウトするというのはただ単にじょにおが自分のことをゲイだと明かすことだけではなく、俺というパートナーがいるということを言うことにもなる。俺としては、じょにおから家の事情を聞くにつけ、少なくともお母さんとは性格的に見て良い関係を築けるような気がしている。(注:じょにおのうちは、お父さんは実質的に隠居状態で、お母さんのキャラクターが強いようで、じょにおの実家との関係ニアリーイコールお母さんとの関係のようだ)

さて、そのカムアウトをしたとして、犬を飼うことに先行して、俺がまずお母さんに御目通り叶わねば前にはことは進まないだろう。じょにおは弟には、「カムアウトするなら自分がいる時にして」と言われているようだが、さて、どうことを運ぶつもりだろうか。もちろんこのことはじょにお任せでななく、俺としてもじょにおとパートナーシップを築いていっていることを説明する義務がある訳だが、じょにおが口火を切るのはどうなるか、最近の考え事になっている。心配事でなく、頭に浮かぶこととして。

そして、犬を飼うとなれば、もちろんじょにおやじょにおの実家に任せきりではなく、俺自身のライフスタイルをそれに合わせることも必要だと思っている。飼いたい犬種ももう決まっているのだが…

バーニーズマウンテンドッグ。
バーニーズマウンテンドッグ。

さて、飼いだすのはいつになるか。