カイリー(ナイト)に見るポップ


23日(金)の夜に、カイリー・ミノーグニューアルバム”Aphrodite”リリースのオフィシャルパーティーが新宿二丁目のクラブArchであって、行ってきた。入口で友人K君に会い一緒に入場。暑い。そして混んでいる。まだ11時(注:午後)だというのに異様な盛り上がり。何となく一般のゲイクラブとは違う感じがしたのは、女性が多いせいか。

1回目のショーは11時の予定が押して0時前に。司会のバビ江ノビッチ(以下『バビエ』)がショー後にMC。もう一人のドラァグ・クイーン(徳光和夫の甥だとか 名前失念)も出て告知があったが、カンペが見づらいらしく、大変な様子。

ショーが終わって趣味のステージダンス(笑)をしているバビエと少し話す。1時のショーは”All The Lovers”をやる予定でステージにお客さんを引っ張り上げるから前にスタンバイしておいてほしいとのこと。

1時のショーが始まり、”All The Lovers”がかかる。バックダンサーが出てからバビエが登場。そして恐らくセレクションの済んだ前にいる人達を引っ張り上げると、皆頼みもしないのにPVどおり服を脱いでバビエの下で軽く絡みながらクネクネ踊り、ちゃんとサビに合わせて手をウェイビングする。バビエはPVどおり裸連中に倒れこんでパフォーマンス。ああいうのを見ると、カイリー好きのゲイは雰囲気を読むのがうまくて予習怠りないのだと思う。「ああいうのを見ると」と言っても、自分も前打ち合わせ一切なく上げられてやってきたのだが。(笑)

"All The Lovers"の衣装のバビエ。
“All The Lovers”の衣装のバビエ。

ショーが終わり、MySpaceがやっているカイリーカラオケコンテストという少々イタい企画(笑)があって、それが終わったところで暑くてならないのでK君と外に出る。少しぶらぶら歩き回って、疲れたのでココロカフェで未明のお茶タイムにする。K君とは数年前からあちこちで顔を合わせてはいたが、そうあれこれ話したことはない間柄で、あらためてお茶をして「あ~、ちゃんと色んなことを考えてるんだな」という感じ。あれこれwebに晒すと何なので、詳細は略。

そしてまたクラブに戻るが、汚い酔っ払い方の女子が多いので始発にておとなしく帰る。

ところで、”All The Lovers”の時に徳光甥がバビエに「何であんたああいうことするのよ!? 私ああいうの大っ嫌い」と冗談ごかしのヒステリーを起こしていたが、ドラァグ・クイーンという立場が何たるかを達観したうえでパーティー趣旨に沿ってサラッとポップをやりこなしてしまうバビエに対して、まあ素では間違っても男にモテないような顔で自己表現として女装を選んだ彼女にはかなりのコンプレックスが裏にあるのだろうなと思った。また、いわゆる毒吐きキャラで話をするのもドラァグ・クイーンとしては定石のテクニックなのだが、いかにも品を欠いた印象。

対してバビエは、女装(ドラァグ・クイーンは自称して単に『女装』という場合がある)という表現手段に立っていることを冷静な目で見る自己認識力があって、遊びの場でわざとキッチュなことはするし、自分がその業界でポップな位置にいることは自覚しつつも、業界自体が世間一般から見るとニッチだということも認識している。その冷徹さがあって、かつ、世俗「的」な場所にいたとしても下品には堕しない品性を備えている。(話もパフォーマンスも)だからこそ、トップドラァグ・クイーンの1人としてやっていけているのだろうな、と、あらためて見て思った。もちろん、衣装やメークやショーの演出といった、基本的な所にセンスが光っているのももちろんだが。

ところで肝心のカイリーだが、前作”X”が不評で、コケるかと思いきや正統派ポップに戻ってきて一安心。(ちなみに少し前に”Aphrodite”についてはレビューを書いておいた)カイリーはお色気ではあるがセックスそのものではなく、時には「歌があまりうまくない」と評されながらも日本のオタク向けアイドルとは大きくフィールドが異なる所にあって、「アーティスト」と称して恥ずかしくないレベルにはもちろん達している。リミックスワークはかなり面白いし、ライブなどを聴くとスタジオ版ではバックコーラスがやっているのかと思ったかなりの高音も自分で歌いこなしていたりする。1987年以来もう23年のキャリアをもつカイリーの曲をクラブで聴いて曲自体の魅力も再認識したが、中にはちょっと突っ込みたくなるようなところもあって、そういう隙も含めたところが愛されるポップ歌手なのだなあとあらためて思った。そして、ドラァグ・クイーンの2態を併せ見て、ポップであるには卑俗すぎない一線を保つ能力も必要なのだなとも思ったのだ。いろんな意味で面白い一夜だった。