Whitney, You Were Loved.


昨日の昼、ニュースでWhitney Houstonの死を知った。彼女のファーストアルバムはアナログ盤で買ったことを覚えている。

デビューアルバムのジャケット写真。邦盤では白いハイレグ水着の別写真だった。
デビューアルバムのジャケット写真。邦盤では白いハイレグ水着の別写真だった。

そんな時代からほとんどずっと、彼女の声には魅了され続けてきた。「ほとんど」というのは、彼女がドラッグに侵されて長く音楽界での不在が続き、後に発表されたアルバム”I Look To You”の出来にがっかりし、他はリミックスも含めよく聴いたのに、あのアルバムだけは2、3回しか聴かなかったからだ。アルバムリリース後、Good Morning Americaで流れたニューヨークでのひどいパフォーマンスに一層がっかりし、それ以上聴いて絶望するのが怖くて、その後の来日公演も観に行かなかった。そしてその予想通り、最後のツアーは散々だったようで、厳しい批評のニュースを聞いたりYouTubeで見るたび、打ちのめされたものだ。

I Look To Youのジャケット。最大限にしてこの写りだから、実際の憔悴はいかほどのものだったのだろう。
I Look To Youのジャケット。最大限にしてこの写りだから、実際の憔悴はいかほどのものだったのだろう。

確かにドラッグに飲み込まれていってからのWhitneyはひどかった。ドラッグ使用の事実が公になったのは2002年のDianne Sawyerによるインタビューだったが、それまで長きに渡ってその噂はあった。個人的に最初に「あれ?」と思ったのは、もっと早い。1995年のサウンドトラックアルバム”Waiting To Exhale”に収録されている”Why Does It Hurt So Bad”のブリッジで、声が荒れている所があって、普通ならリテイクするようなレベルなのに何だろう、と思った。ひょっとしたら、もうこの時には始まっていたのではないだろうか。尤も、この曲のレコーディングにWhitneyは消極的だったというから、投げやりだったという可能性もなくはないが。

"Waiting To Exhale"のジャケット。
“Waiting To Exhale”のジャケット。

その件を置いても、Whitneyは明らかに変わっていった。横柄な態度は増大していって、インタビューによってはインタビュアーに挑発的な態度を取るようになったし、Bobby Brownとの関係もめちゃくちゃで、アメリカでは二人の私生活公開番組もあったが目も当てられない様子。どれもこれもがひどかった。けれども、その段階ではまだウォッチャーにとって笑えるネタどまりだったし、実際「あー、ホイットニーってこんな感じ!」と、MadTVのパロディーを見るとおかしかった。その頃は。

それでも彼女の”Just Whitney…”以前の作品は輝いていた(いる)し、Whitneyは自分の中でdivaの第一人者たり続けた。俺のiTunes/iPodのプレイリストには彼女のプレイリストが入っているし、個人で聴くためのノンストップハウスミックスを作ってあって、ジムでのワークアウトで調子が上がらない時に聴くと、気分が上向きになったものだ。

"Just Whitney..."のジャケット。
“Just Whitney…”のジャケット。

散々だった最後のツアーが終わってから、彼女はもう再起不能であの声は永遠に失われたと諦める気持ちが大半だったが、でも心のどこかでまた復活してくれるのではないかと思ったりもしていた。時々彼女が誰かのパフォーマンスに姿を現したというニュースを聞くと、「お、ひょっとして?」と期待をこめたものだ。でも契約上やっと出た”I Look To You”の前に、彼女の音楽キャリアは終わりを告げていたのだろう。それにしても、後半のWhitneyの楽曲は悲恋の曲や困難を乗り越える様を描いた曲が多く、うまくいかない私生活があまりに反映されすぎていて痛々しかった。

どれほど出好きで肝が座っていたとしても、アメリカの名声と音楽界を背負う重荷を一身に受けて、成功し続けることのプレッシャーは並大抵のものではなかったはずだ。しかし、薬にだけは手を出してほしくなかった。よく、「40を超えてからがソウルシンガーは本物」という。彼女は本物であり続けたのだから、そこから先、本物の中の本物になってほしかった。ずぶずぶと長年かけて崩れていった挙句の死という一連のことが、悔やまれてならない。どんなに精神的にも肉体的にも苦しかったろうか。人はいつか死ぬ。ドラッグ漬けだったら、なおさら短命でも無理からぬこと。それを考えても、死ぬのは早すぎたけれども、抜き差しならぬ苦しみの中で、もう彼女は開放される時だったのかもしれない。

晩年、好奇の目に晒され、もう終わりだとの声にさいなまれ、期待するファンからの失望と叱責に囲まれていたとしても(こうして綺麗事を書いているが、俺も彼女の音楽を愛聴する一方で、そうした厳しい視線を投げかけていた)、それでも言える。Whitney, you were loved.