Bollinger La Grande Année 2000


シャンパーニュやワインで変な日本語読みがされる物がある。例えばPiper-Heidsieckがパイパー・エドシックと書かれたり、Rothschildをロスチャイルドと読んだり(金融グループはロスチャイルドでいいかもしれないが)。所詮カタカナ表記では同じ音で書くことはできないにしても、あまりに遠いのはいただけない。ではそういった読み方を是とする人にとってはTaittingerはタッティンガー? そして今回取り上げるBollingerはボリンガー?

ボランジェ、である。今回はボランジェを飲んだのだが、もしこれが「ボリンガー」だったら、おいしいシャンパーニュだとは絶対に思えないだろう。音の響きからもイメージは大事だ。ボランジェは1829年設立の名門メゾンで、その名前は第二次大戦中からメゾンを切り盛りしたリリー・ボランジェによって有名になったとか。リリー・ボランジェはボランジェ家に嫁いだ後、未亡人になってマーケティングにいそしんだらしいが、シャンパーニュメゾンは不思議と未亡人によって隆盛する所が目立つ。ヴーヴ・クリコ然り、ポメリー然り、そしてこのボランジェも。ボランジェはマーケティングが上手い。今ボランジェが何によって一番有名かと言えば、007が愛飲するシャンパーニュはボランジェという設定だ。逆にそれを活かして、企画物の弾丸型をしたケース入りシャンパーニュまで出してしまっている。(マグナムサイズでそのケース入りシャンパーニュは約60万円!)

と言うと、イメージだのマーケティングだのはうんざりという人からは敬遠されそうだ。俺もそういうのは大嫌いだ。だがボランジェは、メゾン自体がしっかりしていて上質なものを作り続け、広告は売り出しとしての分限に留まっている。だからこそ評価されるのだろう。畑は広大な自社畑を有し、オーク樽をメンテナンスする職人もいる。(醗酵のすべてをオーク樽で行なっているわけではないらしい)シャンパーニュ作りに使う果汁はぶどうの自重で染み出すフリーランジュースのみ。ボランジェ憲章と呼ばれるいろいろな決め事があるそうで、その徹底したクオリティーコントロールがボランジェの名声を呼び、クリュッグ、ルイ・ロデレールとともに御三家と並び称されるのだとか。(俺は世界3大◯◯とか御三家とか四天王とか、そういう呼び慣わしは信頼していない。特にこういう趣味の世界の物については好みや評価は千差万別、そんなものは要らない)

Bollinger La Grande Année 2000(ボランジェ ラ・グランダネ2000)は、そんなボランジェのビンテージライン。La Grande Annéeは名前のとおり、ぶどうの作柄が良い偉大な年に作られるのだとか。熟成はマグナムサイズの瓶で5年の長きに渡って行われ、リュミアージュ(澱を瓶口に集めるための瓶回し)やデゴルジュマン(澱抜き)は職人の手作業でといった、丁寧な作られ方をしている。

濃い緑色のボトル。
濃い緑色のボトル。

ビンテージラインで高級と称されるシャンパーニュなのに、エチケット(ラベル)はそっけないほどにシンプル。その上にはイギリス王室御用達のマークが(シールで)貼られている。

開栓し、グラスに注ぐとクリーミーな泡が立つ。濃い黄金色は、いかにもリッチな雰囲気。そして実際、味わいもリッチ。オーク樽での発酵香と、アカシアの花や黄色いバラのような香りがして、一口目から華やいだ気持ちにさせてくれる。味わいがしっかりしているので、軽いオードブルなどでは負けてしまうかもしれない。この日はブリートリュフや、ギリシャのムサカ風のナスと挽き肉とチーズの重ね焼きと合わせたが、よく合った。

気楽なうちご飯。
気楽なうちご飯。
いかにも上品な佇まいの泡立ち。
いかにも上品な佇まいの泡立ち。

飲み進めると、蜜のような香りが奥から立ち上ってきて、酸味もあるが、あくまでバランスが取れていて奥深い感じがし、上質な印象はそのまま。泡立ちもきめ細かく長く続く。そして酔い心地も軽く、これぞ上質なシャンパーニュといった満足を与えてくれる。飲んで大満足の1本で、いいシャンパーニュを探している人にはお勧め、機会があればぜひ味わってみてほしい。

ところで、Bollingerには更にレアなR.D.やVieilles Vignes Francaisesがあるが、そちらはまたいずれ。(じょにお悲鳴)

追記:ボランジェは1884年からイギリス王室御用達となっていて、恐らくだが、ジェームズ・ボンドがボランジェを愛飲しているという設定は、女王陛下への忠誠を誓うジェームズ・ボンドゆえに王室御用達品のボランジェ、という図式なのだろう。
でも、王室と同等品を愛飲というのは、本来は不敬な行為であるはずだ。イギリスではクラスを重んじる。例えば自動車にしても、買う金がありさえすればロールス・ロイスやベントレーに乗っていいということにはならない。女王陛下がベントレー・ステート・リムジンに乗っている限りは、首相はずっとジャガーである。尤も、ジャガーも御用達ではあるが、格の分限をわきまえるということならば、ジェームズ・ボンドが飲むボランジェはラ・グランダネということになっているようだが、それはいい物を飲んでもさらにR.D.やVieilles Vignes Francaisesをたしなむのは王室に譲れるという言い訳が立つからだろうか?(笑)