David Foster & Friends 本物のポピュラー音楽


David Foster & Friendsを聴きに行ってきた。チケットはありがたくも友人が取ってくれていたので、労することなく。当日待ち合わせて会場の東京国際フォーラムAへ。当日券が出ていたようだが、会場はほとんど満席。音楽の種類と比較的高めのチケット代のせいか、聴衆は上品で落ち着いた感じの印象の人が多かった。

開演予定時間を少し過ぎてスタート。David Fosterは先のアメリカ大統領選挙の時にMitt Romneyのファンドレイジングパーティーをやったりしただけに、「ああ、白人の成功者で保守の人ってまさにこんなイメージ。フランクを装いつつも我を通すちょっと開き直った押し出し方の、少し下品な様子とか」と生で見て思う。どことなくMitt Romneyに似た感じの顔でもあるような。表情的に。

のっけからそんなシニカルな見方をしてしまったが、それはそうと、音楽である。Friendsの最初はHayley Westenra。清冽な声が印象的。クラシック寄りの人で日本人ポピュラー歌手との共演もあるようで、『涙そうそう』なども披露していた。この人が終えたところで、しゃべりの得意なDavid Fosterが最前列にいたタムラという白髪の男をいじる。なんでも寝ていたとかで、英語のえの字も理解しないようなどこかの招待客。ひどい有様で、この後終始ずっとこの男はDavid Fosterにいじられることになるのだが、David Fosterにやり込められて良かったと思う。またそのDavid Fosterのやり方が一流なのだが、よほど頭にきたには違いがない。

2番目に出てきたのは、やはりクラシックテナーボイスを持つFernando Varela。YouTubeへの投稿がDavid Fosterの目に留まり…という最近ありがちなサクセスストーリーを持つ彼だが、声は素晴らしく、見出されただけのことはある。見事なハイCを披露するなど実力十分。その一方でポップな持ち味もあって、いい歌手だった。彼の声はオフィシャルサイトで聴くことができる。ちなみに公演が終わって照明が上がってからもステージに姿を見せるなどのフランクさも好感が持てた。

次は新人で目下アルバム制作中のDirty Loops。何故かBritney Spearsの”Circus”とAdeleの”Rolling In The Deep”のカバー(アレンジは彼ら流)を披露。ボーカルのJonahの声は絞りだすような高めの声が印象的で、どこかスティービー・ワンダーのようなニュアンスもあったが、基本はロック、しかしジャズの素養もあるようだ。せっかくなのだから、自分たちのオリジナルをやって欲しかったと思う。

そしてPaul Youngが登場。残念な感じだった。声がヨレヨレで全然出ていない。新橋のオッサンがカラオケで紛れ込んできてしまったような感じ。ついでにルックスも。時の流れは残酷だ。人選的に疑問。”Every Time You Go Away”のイントロだけが印象に残った。

しかし次のPeter Ceteraは声も保っていたし、独特のフレーズを歌い飛ばすようなソングスタイルも健在。そしてやはりあの名曲”Hard To Say I’m Sorry”の哀愁を帯びたメロディーは日本人の感性にフィットするのだろう。しかしPeter Ceteraをスーツ姿で見るとは思わなかった。故Robert Palmerを思い出した。

このあたりまででかなりたっぷりな印象なのだが、ライブはまだまだ続く。期待のBabyfaceは成功した作曲家としてのDavid Fosterにかなりの敬意を払っていた感じだが、パフォーマーとなると独壇場。”When Can I See You”も情感たっぷりだし、”Change The World”も圧倒的。即興で件のタムラ(会場ではDavid FosterからTakaと名付けられていた)を素材に1曲やったのだが、お遊びとしてはもったいない出来だった。

盛り上がり的にはそこでステージを〆てもおかしくはないほどだったが、そこから更にトリのChaka Khanが登場。Rufus時代の”Tell Me Something Good”でスタートし、外せない名曲”Through The Fire”を披露し、Dirty LoopsのJonahをフィーチャーして”Ain’t Nobody”を演り、”I’m Every Woman”で〆る。Chaka Khanのレパートリーの中では定番も定番のみの数曲で、喉にもまだまだ余力のあるような歌い方だったが、それでも図抜けた迫力。声は2007年のアルバム”Funk This”よりも若返ったような感じさえした。

そして最後はMichael Jacksonの”Earth”で全員が出てきた。”Earth”を選択したのは保守党支持のDavid Fosterでも地球環境は考えてるんですよ、ヒューマニティーがあるんですよということをアピールして面目を保つためか。(笑)

その他、ここに紹介した意外にも数々の曲がDavid Fosterのピアノによって披露され、なんとも豪華な一夜となった。時間も3時間弱とたっぷり。その間、常にエンターテインし続けるのは、さすが。普通なら大御所作曲家がやってきてヨッコラショ→往年のヒットパレードをさらっと披露→アリガトゴザイマシタ、で終わるところを、終始ショーアップしてみせていたのが見事。曲や歌い手の力量など、エンターテインメントのコアがしっかりしているのは当然として、それだけで十分なところをそのうえに付加価値を持たせる、そのバイタリティーがさすが。本物のポピュラー音楽の分厚さをあらためて知る一夜だった。