厳密で複雑な機械


旅行から帰ってきたら、電子レンジが死んでいた。いわゆるデザイン家電の走りみたいなのを今まで使っていて、俺が一人暮らしの時からの物だ。オーブンレンジなのだが、電子レンジの分数を指定する10分、1分、10秒のキーのうち、一番使う1分のキーの反応がない。じゃあ10分でやって、やりたい分秒だけ過ぎたら取り出せばいいかと思ってやってみると、30秒ほどしたら、ピーーーーーーっと鳴って変なエラーコードを表示して止まってしまう。うーむ。もともとオーブン機能がヌルくて、カッコだけの奴だなあと思っていたが、いよいよお役御免だな。というか、電子レンジがないと冷凍した食材や料理が使えないではないか。これは緊急に必要、ということで、新しいのを買った。

新しい電子レンジ。
新しい電子レンジ。

検討した結果、パナソニックの、ビルトインではないやつで今日現在一番いい機種になった。中央のディスプレイは使っていない時には消えるので、割と外見はシンプル。できるだけシンプルなデザインのものを選びたかった。複雑な調理機能は要らないから、ちゃんと温まってくれて(レンジもオーブンも)しっかり使えればそれでいいし、ずっと出ているものなら、主張しないものがいい。機能的にはこれより1つ下のグレードの奴でもよかったのだが、それは店頭でみたら、さばの塩焼きだのスポンジケーキだの何だのとメニューがずらずらここに書かれていて、表示が消えるやつではないので、うっとうしいから却下。(そこら辺、美意識がないのがパナソニックだなあと思う)で、現物を某苗字の名前のついた電器店に見に行って、配送に時間指定ができないとか言い腐るので、アマゾンでポチっと購入。夜中にポチっとやると次の日にはもう届く。すごいね。安楽だね。

で、設置してみて、ややデカいものの、だんだん見慣れてくる。外見に見慣れはしたものの、今日はタヒチ旅行のブログをアップして疲れたので、外食してまだ新型レンジは未使用。

もとい。この新型オーブンレンジなのだが、やたら多機能。上段と下段で違う料理が同時にできる「合わせ技セット」とか、凍ったまま料理を開始して焼き目までつける「凍ったままグリル」とか。その「凍ったままグリル」とかいうのは、取説に別冊レシピ集まで付いている。で、レシピ集を見ると、「簡単」とか言ってるクセに、仕上がりは水分量が重要だから「肉や魚の表面の水分は拭き取れ」とか、「冷凍する食品はレシピの分量を守る」とか、「調味液やたれに漬けたらすぐに冷凍しろ」とか、「保存袋の中で重ねず、平らにし、厚みをそろえ、空気を抜いて、折り曲げずに、ラップを使わず、平らにetc, etc…」とかナントカカントカウンタラカンタラゴニョゴニョクドクドウダウダグタラグタラ。

うるさいよ!

俺はね、料理にはこだわるよ。おいしい物のためにかけるひと手間を惜しまないよ。最寄にハーブがなかったら伊勢丹まで買いに行くよ。で・も・ね。チンするための前段階としてこんなナントカカントカウンタラカンタラゴニョゴニョクドクドウダウダグタラグタラしなきゃいけないんだったら、自分でちゃんと調理するから。火を使って。焼いて。炙って。蒸して。炒めて。ソテーして。グリエして。コンフィして。煮しめて。

これを本末転倒といわずして何というか。こういうのが、日本なんだなあ。「便利」とか「文化」とか謳うものって、そんなに便利でも文化でもない。それに美しくない。通販番組でオバハンの「へえ~~~」とか「うわあ~~」とかの声が入りつつ売られる便利グッズの数々を思い浮かべてごらんなさい。一昔前の言葉だけど、文化住宅、文化包丁、実体は美しいですか? 料理の話に限局するとしても、このナントカカントカウンタラカンタラゴニョゴニョクドクドウダウダグタラグタラの末のチンした食べ物を「おいしい」と言う人がいたとしても、「電子レンジの割に」とか「冷凍した物の割に」とか「案外」とか、付くでしょ? 代替手段なわけ。次善策なわけ。で、そういう手段には、セカンドベストなり妥協なりのモンとしての姿があれば、作る方も食べさせられる方も納得するわけよ。しかし、こうして機械に従属して、指定されたトーリにやってチンして「これチンしただけなの、すごいでしょ!」って言いたいがためのこれって、ほんと何なんだろうと思う。

ま、そうは言ってもね、もちろんいいところはいっぱいある(だろう)わけで、センサーで細かく見分けて均等に熱するとか、ちゃんと庫内の温度が上がるとか、省エネとか、そういうところは大いにいい。だから、そういういいところは愛せるし、道具を愛せなかったらいい作品は生み出せないから、大いに愛するよ、俺は。ただ、ナントカカントカウンタラカンタラゴニョゴニョクドクドウダウダグタラグタラは、しません。しませんとも、ええ。

はぁ。世の中、複雑だねえ。