朽ちる人


何から書き始めてよいものやら…。ちょっとずつダメになって行く(行った)人の話をしようと思うのだが。その人間を仮にGとしよう。

昔からちょっとズレている所があった彼。言葉が多い割には言わんとするところがはっきりせず、何か言うと仲間からは「それはちょっと違うでしょ」というつっこみを受けることが多かった。長男、私大卒。仕事に活かせる資格は持っておらず、現在40歳を超えている。Gのことは、もうずいぶん長く知っているのだが、大学を卒業後は、とある地方で大学講師をしていた。そのうちGはその地方で女性と知り合い、結婚した。結婚は突然で、俺も共通の知人も、結婚相手の女性を事前に紹介されたことがなかったので、驚いたものだ。それからも特に夫婦の関係については何も語られず、結婚生活も7年になり、そろそろ子供ができるとかいう報告があっても、と思っていた頃、離婚。結婚相手の女性が他に男ができて出て行ったのだとか。

その後Gは他の地方の大学(もしくは専門学校 本人の説明がはっきりしなかった)へ。G自身の口からは聞かれなかったが、状況から察するに、離婚問題とは別に、仕事の能力の問題として、講師をしていた前の大学はクビになったのだと思う。この頃、移住と相前後して離婚のショックが引き金になって(本人談)、Gはうつになっている。移住先で別の女性と知り合うが、その頃相前後してその学校の講師も辞め、以降2年ほどずっと無職。その間どうやって食っていたのかは知らない。

ややあって、Gは女性を伴って、Gの実家の近所に引っ越した。Gの父は以前に亡くなっており、実家にはGの母親が住む。病気はしたが人の介助の要らない母親の近くに引っ越す必要もなく、それはGが親から経済的援助を期待してのことだろう。しかし、それとて大の大人を何年も遊ばせておくほどの余裕のあるものではない。しかし、引越して以降もGは無職だった。交際相手の女性は資格を持って働く職業で、女性はGと知り合った当時も、引っ越してからもコンスタントに仕事をしている。この頃、俺と複数の友人はGに会っているが、あまりにのほほんというかぼんやりした生活ぶりだったため、「何か悩みはないのか?」と聞いてみた。その時「ないなあ」とGは返答している。突っ込んだところで、同じ答えだった。Gは実家の近くに引越して約半年後、交際相手の女性と結婚。結婚前後には、うつは軽快していた模様。そして結婚の条件としてなのかどうか、女性の入っている宗教にGも入信し、宗教行事に参加している。Gはしばらく無職だったが、非正規雇用の仕事を得て働く。が、仕事が(これもおそらく彼の仕事の出来なさゆえ)うまく行かなかった。そこでうつが再発したのか、ある日「どうしても仕事に行けなくなってしま」って、その日から休職。本人曰く、休職は3ヶ月とのことだったが、もちろん長引き、失職してしばらく、今に至る。(近況後述)

ところで断っておきたいのは、うつ病を非難するものでは、もちろんないということだ。人は誰だってうつになり得るし、うつは「気の持ちよう」とか「頑張りが足りない」とかいう問題ではない。職がないことについても、そのことだけを非難するものでもない。専業主夫という生き方だってある訳なのだから。しかし、Gの場合、何というか覇気のないところがいろんな生活の破綻を招いている気がしてならない。そして、彼は妙なところでもったいをつけるというか格好をつけようとするのだが、なんなのだろうと思う。(職がない間何をしていたのか聞かれると、『論文を書いたり…』などと言っていた。学会にも所属しない人が、提出先も発表先もないのに?)自分が何もしないなら何もしないという選択をすればいいのに、何かするようなそぶりをして、実際は何もしない・できないG。そうなってくると、視野が狭く、言動がおかしくなってくる。たまにメールや電話があると自分のことに関する重いネガティブな内容ばかり、しかも、相手の都合お構いなしに、朝7時前に電話してきたり、休みの午前中にメールしてきたりで、共通の友人も辟易。俺はメールはフィルタリングしてしまった。

挙句、近況。例によって日曜日の午前中、ある友人にGからメールが入った。「どうしても仕事に行けなくなってしま」って休職したのだから養生でもしていればいいものを、実家のそこを離れてまた他の地方、それもかなり離れた所に「来年度仕事の誘いがある」から行ければ、などと言う。翻弄される妻はどうなるのだろう? そもそも、もう職に就いていないのが長年になり、しかも途中で職務をまっとうできなかった人を資格も経験もノウハウもないのに雇うだろうか?? 最近のGはどうやらアルバイト生活をしているようなのだがそれも続かないらしく、(人に客観的に自分のことを知らせるというすべを持っていないので、メールの散発的な内容から知れる)、友人と俺を最も落胆させたのが、

「今日はビラ配りのアルバイトです」

の一文。

友人曰く、「普通さぁ、金がないとかどうのとかでバイトするにしても、ちょっと将来性とか継続性のあることしない? コンビニのバイトとかでも、そのうち『頑張ってるから時給上げよう』とか、『接客が気持ちいいね』っていうのから見込まれて、とかあるでしょ。でもねえ。ビラ配りって……。『あの人は気持ちのいいビラ配りの仕方するね』とかないでしょ? スキルが上達するとかももないでしょ? 所詮単発の、使い捨てのそれを選択するって、その年でどうなの?って…。」と。そういうところが、GのGたるゆえんというか有様というか。

友人達とて、既にGのことはほとんど見限っているのだが、自分達と同年代の、長年知ってきた人間がそうして社会的に朽ちていく様を、本人何の悔悟も見せずにグダグダで書送ってきた日曜日の午前中のメールで見せつけられると、さすがに暗澹たる気分になるのだ。もう、叱咤しようが激励しようが、これは、この間のグレーゾーンの人と同じで、多分こういう人は元には戻らない。いや、元というのがあればの話だが。昔は少なくとももう少しマシだった。長年知った人が堕ちていくのを聞かせられるのは、気分がどんよりする。<>