音楽レビュー KEM


Promise To Love (2014)



(★★★★★ 星5つ)




内省的で繊細な世界を表現するKEM。ややもすると陰気になりがちで、いい音楽だなと思いながら長らく聴いておらず、このアルバムで久しぶりに聴いた。

この種の音楽というと、早逝の才能Lynden David Hallとか、Lynden David Hallがよく比較対象にされたD’angeloあたりを思い起こす。彼らの音楽は夜中に独りで聴きたいような音楽なのだが、KEMのこのアルバムの中で言うと、音数の整理された”Do What You Gotta Do”は禁欲的な従来のイメージだし、”The Self Side of Love”では前述のまさに内省的世界を表現していて、蒼いせつなさを漂わせる世界観は捨てられておらず、健在。

しかしそれだけではなく、このアルバムには少し前向きさがあって、全体のトーンは明るめ。フィーチャリングアーティストもSnoop DoggやRonald Isleyなど、陽のイメージの人達が入っている。以前のガラスのような繊細さから比べると、幾分カッチリした印象。そしてリラックスしたムードが表現されていて、肩の力が抜けてより洗練された。

ラストには女性ボーカリストL’Reneeの歌う曲が収録されており、これはKem Presentsとなっている。そこからもうかがえるとおり、内向きの世界から外へ向かっていこうとする姿勢があり、これからも一層の期待が持てる。こうした良質なアーティストが、商業ベースの音楽界で発表の機会を持ち続けられるようであればいいなと思う。ちなみにこのアルバムはピークチャートで3位、R&Bチャートでは1位を獲得している。評価されていてよかった。(2015/3/27 記)