音楽レビュー Heather Headley


Only One In The World (2012)


(★★☆☆☆ 星2つ)

一言で言うと、歌が下手になった。デビューアルバムの”This Is Who I Am”などは地味ながら実力派のポテンシャルを感じさせてよかったので、それから10年を経て聴いてみて、正直がっかり。少なくとも、曲を消化できていない。

カバーで有名アーティストの看板曲やヒット曲を歌っているが、いずれも「元曲を歌っている人に謝れ!」といった出来。Whitney Houstonの”Run To You”は、Whitneyの声の清らかさやスケール感に劣るし、Karyn Whiteの”Superwoman”は、せつなさただよう曲調とKarynのポップな歌声にも及ばなければ、かつてPatti LaBelle, Dionne WarwickGladys Knightのスーパーな3人によるカバーで実現された豪華さもない。そしてStephanie Millsの名曲”Home”も、Stephanie Millsの粘っこい歌声で練り上げた元曲の輝きを失っている。R&B / Soulをよく聴いていた人ほど、このアルバムでカバーを聴くとガックリくるだろう。

なぜこんなことになってしまったのだろうか。歌い方を聴くと、曲の解釈が浅すぎてダメにしてしまったことと、テクニックを使おうとして勘所の判断がまずいことが知れる。妙なデクレッシェンドと不自然なクレッシェンド、高音になって裏声で行くか地声で頑張るかの勘所をオリジナルに影響されすぎて自分の声域でカバーできるのかどうかの判断を投げてしまっているところなど、誤った判断の集積がこの結果なのだろう。もともと実力派だったのが親しみやすい曲でついにメジャーな存在を目指して打って出たかと期待していただけに、この出来は残念。
シンガーソングライターのアルバムなら、曲作りをする人はその人の中にあるものを自身が表現することで初めて出てくるものがある、という言い訳で、多少歌が「ん?」と思うものでも聴けたりするが、歌唄いの歌い方がまずいと、どうしようもない。(2012/10/3 記)