音楽レビュー Donald Sheffey


This Is Life (2012)


(★★★★☆ 星4つ)

目にしたことのない名前の人だが、ニューヨークを中心に活動していて、アルバムも既に数枚出しているらしい。過去アルバムは2000年代中頃から連綿とインディペンデント・レーベルから出しているようだが、かなり小規模な所のようで、アマゾンなどではCD-Rでの提供(!)という注記が付けられているアルバムもあった。公式サイトも独自ドメインではないし、myspaceのページも自身が所有運営しているWeezie Productionsという所の名前で開設されている。

この人の面白いところは、自身のR&Bに対する理解を明らかにしているところ。それによれば、R&Bとはソウル・ミュージックが洗練されたもので、激情に流されたりするものではなく、ラップやヒップホップとは区別されるもっと成熟したものであるべきものだという旨を発言していて、その辺りは乳と尻を振り回す音がR&Bだと思っているRihannaやNicky Minajとひとくくりのジャンルになどされたくない、本物の音楽をR&Bとして取り戻したいという思いの表れだろう。
そうした「小難しい」と思われることを目指しているのだろうなというのは、なんとなくジャケット写真の表情で分かった。考えて悩み創る人なのだろうなという感じが出ている。

したがって必然的にというか予想通りというか、音はメロディーと歌詞を大事にする洗練されて落ち着いたタッチ。その音はさすがニューヨーク出身と思わせる都会的な雰囲気。朗々と歌うタイプではないが、声も魅力的で、都会的な音が好きな人には、きっと気に入られるだろう。インディペンデント・レーベル的な手作り感があって、目指すスタイルとミキシングなどで仕上げられる音のクオリティーが見合っていないと感じられるところはあるが、こうした気骨ある大人の音楽は、大事にしていきたい。(2012/8/24 記)