音楽レビュー Beyoncé


Lemonade (2016)


(★★★☆☆ 星3つ)




これもまた前作同様サプライズリリースとなった。しかし宣伝をしなければしないほど宣伝になるというその目論見は当り、売れ行きは好調のようだ。

音は前作よりも多少聴きよくなった。そして、派手さを捨て、よりエッセンシャルな方向に進もうとする前作からの姿勢は本物のように思える。それが似合っているとかふさわしいとかいうこととは別として。幾分虚無的な曲調の物は、昨今のヒップホップのトレンドを意識しているのだろう、虚飾を捨てつつもしっかり掴むべきところは掴む手堅さ。

Beyoncéはどこへ行こうとしているのだろう。成功・名声からいえばどこへも行かなくていいのだろう。しかし、引退しない限りアーティストは時とともに進んでいかねばならない。その煩悶と飽和と発散との結晶がこのアルバムであるとすれば、好き・嫌いでいえば、個人的にはあまり好きではない。が、聴いての感想は理解と受容を寛容をもって持たねばならないとも感じる。そうした一筋縄では行かないものを感じさせたとすれば、それはBeyoncéの勝利である。そうした超然たる姿勢をこのアルバムからは感じる。(2016/5/4 記)

Beyoncé (2013)


(★★☆☆☆ 星2つ)

ステルスマーケティングによる売出が話題となったアルバム。中身はどうなのかと聴いてみるに、ずいぶん内省的だ。音作りに派手さはなく、フィーチャーされたアーティストも「売らんかな」の姿勢による賑やかしではないようだ。それだけ見ると、中身で勝負、派手さは二の次といった本質的な姿勢に見える。

しかしこれでいいのだろうかという疑問は残る。たとえば音作り。トラックがスカスカの打ち込み音ばかりでスイング処理もなく、エフェクト処理もほとんど目立たないが、あまりにサンプラー素材そのまますぎて、まるでメトロノームに合わせて歌っているようだ。
では構成がしっかりしてて聴かせる曲作りかというと、そうでもなく、単調なフレーズは無機質で、口ずさみたくなるようなメロディーはない。では本人の歌いぶりはどうかというと、これにも大した聴き所はない。

スターはいくら内省的になろうともスターであって、聴かせどころを外してはいけない。それがまるでやっつけ仕事でもしているかのような痩せた音楽をやられると、どうにもがっかりだ。どうせシングルはリミックスでセールス的にも救っていくのだろうが、スタジオアルバムはアーティストの軌跡、それがこれでは、と、残念。ひょっとしてレーベルとの契約でのリリース枚数を達成するためのものなんだろうか、とさえ。
Beyoncéは昔から好みでないのでどうしても厳し目の見方になってしまうが、それにしても「?」というアルバム。(2013/12/19 記)

4 (2011)


(★★★☆☆ 星3つ)

リリース前にプロモーション盤で試聴。Beyoncéについては、今までまともに聴いたことがなかった。Destiny’s Childの頃は好きになれず、ビッ●で出しゃばって尻を振りまくっている感じばかりが先行していて、(振れる尻があるなら振っておくだけのことはあるとは思うが)そのうちモノマネタレントまで出るようになって、ますます聴くとミーハーな感じがしていた。
これまで、リミックス盤”Above And Beyoncé”やライブ盤”I Am… World Tour”は少し聴いたが、何故彼女がそこまで人気があるのか、今一つよく分からなかった。

名前が出て久しいのに、これがスタジオアルバムとしては4作目と聞いて少々意外だ。
が、もっと意外だったのは、その中身だ。今までのケツ振り女のイメージは、先行シングルの”Run the World (Girls)”でやはりといった感じだが、アルバムはシンプルな音作りのバラードで始まり、歌を聴かせるが展開されていて、やっとこの人の芯にある実力を見られた気がした。この辺りは、Jennifer Hudsonが歌重視でアルバムを作ったのを思わせる。

しかし、イケイケ(死語)でダンサブルなものがBeyoncéに期待されるものだということを考えると、これでよかったのだろうかとも疑問に思うし、じゃあ歌重視のこのアルバムが俺が個人的に積極的に聴きたい音楽かというとそうでもないのが微妙なところ。ともかくも彼女はスターなのだという裏打ちを知ることはできた。しかし、アルバムバージョンの”Run The World (Girls)”はスカスカな音で貧乏くさくて、アルバムのラストを飾る曲がこれでいいのかとも思う。Beyoncéファンには、果たしてどう受け止められるのだろうか。