音楽レビュー David Sylvian


David Sylvian ─ A Victim Of Stars 1982 – 2012 (2012)


(★★★★★ 星5つ)

恋愛のパターンに『不幸専』というのがある。道ならぬ、あるいは成就しない相手でないと恋愛的に燃えないタイプで、そうしたところに恋をしては「ああ、わたし(or俺)って不幸」と感じることで精神の高揚を感じるタイプだ。David Sylvianは、現代音楽における太宰治というか、不幸専なんじゃないかと思う。一昔前に流行った言葉で言えば「アンニュイ」を漂わせてこその存在意義。

そういう意味でいうと、このベスト盤がまるで墓碑のように題されているのは、大正解じゃないかと思う。そうした陰鬱で、自分が文字通り被害者であるという宣言は、David Sylvianの作風に似つかわしい。音楽は80年代、やっとデジタルシンセが世に出始めた頃からの音を収録しているが、当時最先端だったパーカッシブなシンセの編み出す、脳天気な最近のエレクトロとは正反対の世界観は、どんより曇った寒い休みの日に聴いたら、すごくはまる。

坂本龍一とのコラボレーションも懐かしく、テクノからニューロマンティックへ移行するメジャー音楽シーンの変遷を拒否した結果、真空世界に取り残されたブルーでダークな展開を、恐山の風車でも思い浮かべながら、あるいは遊牧民が去った後の平原を思い浮かべながら聴いてみてほしい。

Manafon (2009)


(★★★★☆ 星4つ)

David Sylvianの名で心が震える人は、テクノミュージックを愛していた人だろう。今のテクノではなく、テクノカットとか、YMOとかのテクノの方だ。そう、あの伝説的グループ”Japan”の、あの人だ。こんなアルバムをひっそりアルバムを出していたのを発見して、聴いてみた。

一聴して、David Sylvianでしかあり得ない世界。抑制された音と、深いボーカル。歌詞を聴きこまなくても、その世界が深遠であることがすぐ分かる。音作りでいうと、オノ・セイゲンの、コムデギャルソンのアルバムを連想した。芸術が芸術であること、それだけで成り立っている純粋さを楽しめるアルバム。決して普段から聴いて馴染む感じではないが、その独特世界は、とても意義あるものだ。