映画レビュー オデッセイ (The Martian)



(★★★★★ 星5つ)



原作はアンディ・ウィアー著の『火星の人』。本が大変面白かったので、映画ができたと知った時はその出来が心配だったが、とても良くて安心した。

まず、主役のマット・デイモンが実に適役。勇猛果敢に困難を乗り越えていくところは、彼の今までのアクション俳優的役割のイメージにはまっているが、それだけでなく、常にユーモアを忘れないところや、理知をはたらかせるところなどが新しい魅力を加えている。

インドのミッション統括責任者ヴィンセント・カプーアを黒人であるキウェテル・イジョフォーが演じたのは疑問。髭などでインド人風に見せてはいたが、インド系で才能ある俳優はたくさんいるだろうに、と思う。キウェテル・イジョフォーの演技自体に文句はなく、魅力的ではあるのだが。昨今、人種配置の問題は映画界で大きなトピックになっているので、その辺は原作設定を尊重して欲しかったところ。

CGはよくできている。劇場で3Dで見たのだが、火星を走るローバーのシーンはスケール感がつかみにくく、サンダーバードのおもちゃのシーンを想起させるような感じではあった。が、他は奥行きの連続性もまずまずうまく表現されていて、違和感は少ない。
マット・デイモンがサバイバル術の果てにやせ細るところは、体の映るシーンと顔とを撮り分けていて、ボディ・ダブルを使っているのがもろに分かる感じだったが、そこはもう少しCGで頑張って顔と体を一体化させたシーンが欲しかった。

原作小説での醍醐味は、主人公が厳密な計画を考えだすところと、地球にいるNASAメンバーがそれを推量し、双方がコミュニケーションを確立するところにあった。その辺は映画にするとダイジェスト版ともいえる簡略化がなされていたが、それでも話の運びは面白い。そして、原作を読まずに観る人にも面白さは伝わるだろう。
話中の矛盾の少なさも質を保っている。突っ込みどころが多すぎた『プロメテウス』では酷評されたリドリー・スコットは、宇宙映画の権威としての面目躍如といったところだろう。

ヒーローがいて、人間愛があって、アメリカのプライドがあって、という構成は、極めてお約束的だが、それでもポジティビティに溢れているところは胸が熱くなる。SF好きなら観ておくべき映画。(2016/2/26 記)