映画レビュー ミルク (Milk)



(★★★★★ 星5つ)

『ミルク』はハーヴェイ・ミルクのゲイ公民権運動を描いた作品で、評判も良く、複数の友人から観るように勧められていた。が、この映画を観るのが怖かった。あまりにも悲劇的なハーヴェイ・ミルクの最期を観るのが怖かったのだ。しかし、やはり観て良かった。ショーン・ペンの演技力には圧倒される。『アイ・アム・サム』の時もそうだったが、この人は難しい役どころを完全に自分のものにして、映画を観る者を惹きつける。そしてそれがあまりにも自然なために、観客は演技ではなく、映画の表現しようとする意味に集中することができる。

70年代、まだゲイに対する差別の特に激しい頃で、ゲイバーに嫌がらせの手入れがあっては、飲みに来ていただけなのに難癖をつけて逮捕され、翌日新聞に名前が出るとその人は職を失う、ということが横行していた時代。ハーヴェイ・ミルクはそんな時代に今はゲイの聖地となったサンフランシスコのカストロ・ストリートに住み、運動を開始するのだが、史実としてはオープンリー・ゲイで初の市会議員になったところだけがクローズアップされがちなところ、運動を開始してから選挙に複数回破れても不屈であった結果の議席獲得であったという苦労の部分を、この映画では観ることができて、興味深い。
また、ハーヴェイ・ミルクを最後に銃殺したダン・ホワイト元議員についても、公には語られないことながら、極めて強固なホモフォビアである隠れゲイだったのでは、という暗示ともとれるところがあるのも、かなり踏み込んだ解釈で興味深い。

やはりハーヴェイ・ミルクの最期は悲劇そのもので、まるで自分が撃たれたかのように胸が苦しかったのだが、それでもそこから未来へつながってゆくところもちゃんと描かれていて、この映画は観た後に爽やかな生きる意気を与えてくれる。秀作。