(★★★★★ 星5つ)
原題は”20 Feet From Stardom”で、日本語訳にするなら「スターダムから20フィート」だが、あと20フィートで到達するというよりも、そこから離れている距離感を表している。この映画にはR&Bファンには懐かしい、あるいは注目のバックコーラスシンガーが次々登場する。主に大きく取り上げられているのは黒人バックコーラスシンガーの先駆けといえるDarlene LoveとMerry Claytonだが、80年代後半からブラックミュージックを聴き始めた俺にとって注目はLisa Fischer、大きくキャスティングされてはいないがCindy Mizelle、そしてJudith Hill。彼女らの軌跡と今が観られて嬉しい。
しかし、内容としては複雑な状況を描き出していて、ハッピーなわけではない。プロデューサーに名前を消され、売り出しに失敗し、歌を歌うことが本義であって名前を売るなんてslimyという発言も出るものの、結局自分は脇役でいるのかそれとも主役を目指すのかという葛藤がそこにあり、音楽愛という一見納得できる大義名分と成功から離れた苦境との葛藤も見え隠れする。その様がとても生々しい。
思うに、ソロで立てる人というのは音楽業界に限らず、本人の意向にかかわらず備わった「何か」があり、そしてそれを自分で受け入れてしかも幸運の波に乗れる人だ。その「何か」があるかどうかは、実は生来的なもので、本人の才能や努力とはまた別のものだから、運命とは酷なのだが、それでも人はやっていかねばならない。それがない自分を受け入れるのも酷なことならば、それがある自分を言い訳のもとに活かさないでいる臆病というのもよく分かる。この映画には人の生きるべきポジションを浮き彫りにした秀作といえる。(2014/1/17 記)