(★★★★★ 星5つ)
Restaurant TOYOは「パリから世界へ」「お客様へ寄り添い続ける料理」を標榜する中山豊光シェフが東京に開いたレストラン。中山氏は故高田賢三氏の専属シェフであったことで有名。このレストランに行ってみたいと思ったきっかけは、90年代のファッション通信をYouTubeで観たこと。ケンゾーの特集中、中山氏のインタビューがあり、「そういえば現在は?」と検索して知った。ちなみに東京店のシェフは丸山和孝氏。
日本で展開されるフランス料理の店が多くその方式を取り入れるように、こちらのレストランも和の食材や日本の美意識を織り込んでいるという。
今回、俺の57歳の誕生日ディナーで来訪。店は東京ミッドタウン日比谷の3階にある。テナントとしての営業だが、東京ミッドタウン日比谷には過去訪れたSalone Tokyoもあり、ミシュラン3つ星の龍吟もここに入っていて、そうした高級店ラインナップの一角を成す。
入口はごくシンプル。入ると氏の絵がかかっており、店内はカウンターが主。今回はテーブル席を予約した。室内は和を感じる土壁や障子風の腰壁があって、シンプルで上品にまとめられている。天井が高いので、開放感があり、明るい。メニューは品数構成でいうと2種、そしてそれぞれのメニューをグレードアップしたコースが用意されており、都合4種。今回は品数の多い方をグレードアップしたコースをパートナーが予約した。
スタッフは若い。マネージャーは経験豊富なようで、この後料理の説明を聞くにせよ、仕入れの状況から料理法まで細かく把握しており、多少突っ込んだ質問にもそつがなく答えてくれ、大変スムーズ。
例によってシャンパーニュで通すことにして(肉料理の時だけはグラスで赤ワインをオーダー)、今回はTaittingerの2015ミレジメを選択。Comtes de Champagneを含めどのキュヴェも多少物足りなさを感じてしばらく敬遠していたTaittingerだが、これは端正な中にも基底の力強さとミネラリティーを感じることができ、よいチョイスだった。
料理はテンポよく提供される。各皿はこの後写真で紹介するが、豊洲の目利きから仕入れてくるという海鮮が自慢、という言葉に違わず、素材の良さを存分に引き出した皿は白眉。メニュー展開を見ると、雲丹→金目鯛→穴子→鮑と、鮨屋もかくやというラインナップだが、どの皿もきちんとフレンチに昇華していて、レストランの立ち位置がブレていない確かさを感じた。サービスも細やかで丁寧、シャンパーニュを開栓してからの温度管理ももちろん考慮され、コースを通じて快適。
洗面所がビル共通の場所を使うのは、ビル内テナントゆえに致し方ないところ。ただ、東京ミッドタウン日比谷の洗面所はきれいなので、店の外に出て使うと気分が台無しになったりすることはない。
今回俺の誕生日で訪れたが、大体他店では写真を撮りますか?と聞かれるところ、それはなかった。その辺はあっさりしているというか、リクエストすればいいだけの話なので、さほど気にならず。退店の際にシェフの挨拶も略されていたが、それはそんなものだろうと思う。最近はサービスが過剰で形骸化しているところもあるので。
シェフは中山氏とは別の丸山氏が担当する東京店、どれだけTOYOとしてのカラーとクオリティーを維持しているのだろうかと来店前は思っていたが、食べる限り杞憂。ウェブサイトに記されているだけのコンセプトを核として、ガストロノミーと称されるに充分以上の料理が提供されていて、上質だった。時々提供される、どことなくケンゾーの世界を感じさせるビビッドな色の皿、一貫した和の食材使いでも確かにフレンチとして展開される料理を実現する手腕、食材取り合わせのセンス、どれもが一級品だった。