ヴィアンドは、牛フィレ オリーブ ルッコラ。白いのはヨーグルトソース。牛フィレはパーフェクトな焼き加減。肉の凝集感とフィレの繊細さが口中に広がる。三角形のは、ナスとトマト。ガレット風に、カリカリの下地がついて、塩の結晶がアクセントに。圧巻の一皿。
フランス料理

飲食店レビュー Cuisine[s] Michel Troisgros(フランス料理 西新宿 ハイアットリージェンシー東京内)


(★★★★★ 星5つ)

Cuisine[s] Michel Troisgros(キュイジーヌ[s]ミッシェル・トロワグロ)は、言わずと知れたヌーベル・キュイジーヌの店。フランス本店はミシュランの3つ星常連、そして今回行った東京店(ハイアットリージェンシー内)はミシュラン東京で2つ星。パートナーのちょうど30歳の誕生日で訪れたのだが、ちょうど1週間前にミッシェル・トロワグロが来ていたということで、支店として引き締められ、本人の意向反映が色濃くなってしかも消化された頃ではないかと、期待。

そして結果だが、してやられた。というよりも、圧倒された。ヌーベル・キュイジーヌだけに、料理のプレゼンスはモダンで絵画的、一見軽やかなのだが、奥にずっしりと詰まったノウハウと独創力とフランス料理の歴史とが感じられて、与し易しではない。しかし、あくまで料理はゲストを喜ばせるために出されるものというところはおさえられていて、ヌーベル・キュジーヌにともするとありがちな押し付けがましさはなく、極上のホスピタリティと相まって、良い気分にさせてくれる。

今回はコースをオーダー。「…おいしい喜びのために」と題された全7品から成るものだが、メニュー外のアミューズ2品、口直し、アプレデゼールも供されるので、実際は10品(以上)。まずグラスでシャンパンを頼み、(ユリス コランだったか、失念)次いでコースを通じて飲むためのボトルのシャンパンを選ぶ。ソムリエのおすすめのうち、頼んだのはEgly Ouriet Grand Cru Blanc de Noir(エグリ ウーリエ グラン クリュ ブラン・ド・ノワール)。

自家製のパンがサーブされた後始まったコースは古典的な「常識」から自由になったスタイルで、例えばフォアグラのポワレは、普通粘度のあるこってりと甘いソースに合わせるところを鴨のブイヨンを下敷きに出されるし、ほとんど刺身のように生の弾力を楽しめるラングスティーヌ(手長えび)が出てきたかと思うと、続いて冬の味覚と思っているあんこうが「力強い」(メニュータイトルまま)味わいで供される。
素材も料理方法も世界中をあちこち飛び回っている感じがするし、とにかく取り合わせの妙・意表をついた料理法にびっくりする。食べる方からすると、料理へのあくなき好奇心と、好き嫌いなく食べる柔軟さと、次々繰り出される料理を平らげる胃袋とを持ちあわせていてはじめてその世界を堪能することができる奥深さ。

ともかく、この世界は実体験してみないと分からない。チーズのコンディションのすばらしさ、器のインスピレーションソースがどこから来ているかをギャルソンとの会話を通じて知ったこと、全体の雰囲気などなど、興味つきせぬ感じでいくらでも語ることができる。食通の心得のある人は、行ってみるべき場所。インテリアは、木肌を生かした組み木のテーブルや、腰壁に貼りつけたアンフィニッシュドの木など、全体にモダンでかつあたたかみのあるタッチ。集った人の気配を感じながらも視線を適度に遮るゆったりしたテーブル配置も心にくく、肘掛けつきの深々とした革張り椅子で、ゆったりリラックスしたムードで食事を楽しめる。