フランス料理

飲食店レビュー ベージュ アラン・デュカス(フランス料理 東京都中央区銀座3丁目)


(★★★★☆ 星4つ)

ベージュ アラン・デュカスは、店名自体よりも「シャネルのレストラン」としての方が有名かもしれない。銀座シャネルビルの10階に位置し、シャネルとのコレボレーションとして誕生したレストラン。シャネルのフェミニンな印象だと男性客が躊躇するのを防ぐ意図か、最近ではインスタグラムで会食用途を意図した文句で宣伝が打たれているなど、よりユニバーサルなレストランとしての位置づけを図っているようだ。2025年ミシュランでは1つ星。今回は、パートナーの誕生日ディナーで訪れた。

入口(写真失念)はシャネルビル1階、角を曲がった所にあり、レセプショニストはそこに待機している。案内されて10階に上がると、ステップの設けられた入口近くの席を通り、ステージのようになっていてまた数段下り、メインダイニングスペースに入る。吹き抜けのように高い天井で、空間はホテル内にあるレストランのよう。椅子の張り地はシャネルのジャケットを思わせるツイード生地。築地方面へ抜けた景色を楽しめるが、一番視界で目立つのは、斜め向かいのブルガリ銀座タワーのBVLGARIロゴ。

窓沿いのテーブルからの景色はこんな具合。
窓沿いのテーブルからの景色はこんな具合。

ソムリエから飲み物を案内され、相談のうえで今回はPhilipponnat Blanc de Noirs Extra Brut 2018を選択。

Philipponnat Blanc de Noirs Extra Brut 2018
Philipponnat Blanc de Noirs Extra Brut 2018

ソムリエのサービスは実にそつがなく、コースの進行具合に連れて温度管理やグラスの交換も提案してくれる。シャンパーニュのリストは豊富で、興味を引くラインナップだった。

コースの進行具合もスムーズ。特にテーブル担当は決まっておらず、その時々で違う人がサーブするが、いずれの人も(当然ながら)ちゃんとしている。ただ、料理の説明は淀みなくても「しっかり暗記してきたな」という感じで、完全に自分のものにしてその言葉をしゃべっている訳ではない人も。その辺は、個人経営のレストランの方がスタッフを選び抜いていて、本当に料理が好きでやっているんだなと思わせる人がけっこう存在するのとは違う。厳しいかもしれないが、ミシュランの星を獲るということは、それくらいの努力をしている店はたくさんあって、そことの比較で言うと、やはり食通に訴えるプレゼンテーションかどうかは、いま一度問いたいところではあった。

料理はクラシックな技法が元になっているのを感じさせる。味は安定していて、もちろん素材の上質さも感じられる。ハーブ使いは伝統的。もう少し新鮮さがあってもいいかなとは思ったが、味はマッチしている。素材の豪華さはそこそこといったところ。キャビア使いは贅沢だった。オプションではあるが、デザート前にチーズのワゴンサービスがあるのはいい。

シャネルとのコラボ色を薄めたいのかなという広告アプローチはあったものの、もちろんそれを期待している人向けにはシャネルを感じさせるものは色々ある。エレベーターの昇降アニメーションはココシャネルのイラストだったし、壁に掲げられたアートにもシャネルの写真があり、バターはマトラッセパターン、チョコレートケーキにはカメリアの金模様等。

ここに行った人はやはり「シャネルビルの上のレストラン」「銀座の一等地」という、他に得難い立ち位置のプレステージ性・ステータス性を語るだろうから、代金の半分以上は過ごした時間の優雅さや空間の贅沢さに対して払うのであって、ミシュランの星付きの通常のレストランとは重視する点が違うと思った方がよい。やや使いにくいヴィアンドナイフ、もう少し寸法が大きい方が座った時に互いの足がぶつからなくてよいであろう小さめのテーブルサイズ等、気になるところも数点。メニューも、普通このクラスになると持ち帰り用のカードにしたためられるが、そうした物は用意されていなかった。それでも、料理の火入れは完璧だったし、チーズの熟成管理も素晴らしかったので、ストレスはほとんどない。ベージュ アラン・デュカスに行くのであれば、攻めた料理を望むのでなく、ここにある価値を重視して行くと、満足すると思われる。