ブックレビュー ポー


ポー名作集


(★★★★☆ 星4つ)

推理小説というかミステリー小説というか、そういうものの魁たるポー。その時代は、今では古典といってもいい過去になり、より刺激的で残忍で血なまぐさい描写はその後いくつも出てきたから、今では生ぬるいと思えるかもしれない。それでも当時、これを作品として発表するのは画期的だったのだろうなと思う。

有名な『モルグ街の殺人』がこの本の冒頭に収められているが、題名だけ聞いていてどんなものだかはこれで初めて読んだ。なるほどな、と思う展開は、さすがだと思う。内容があまりにも有名で、その後同じモチーフで他の作家や映画なども作られた『黒猫』は、理詰めではない恐ろしさが込められているのがいい。これをオリジナルとして夜に送り出したことはすごいと思う。イマジネーションの勝利だ。

こうしたストーリーそれ自体は推理/ミステリー小説の骨子だが、もうひとつ瞠目するのは、少しヨーロッパの思索の匂いのする語りが存分に込められていること。筋だけを追いたいと思うと少々フリルが過剰に思えるかもしれないが、そうした一連の語りが、これを単なる娯楽でなく、小説たらしめているのだと思う。一度は読んでおいて損のない本。(2012/9/18 記)