ブックレビュー ジェイムズ・トンプソン


極夜 カーモス


(★★★★☆ 星4つ)

フィンランドを舞台にしたミステリー。日本人の思い描く「社会福祉が充実していて人々が幸せに暮らしている国」というイメージを覆す、陰鬱で、感情や社会状況のもつれ具合が印象的な作品。人間関係が入り組んでいて、音に馴染みのないフィンランド人の名前にはすぐ慣れる。キャラクターづくりがしっかりしているからだろう、巧いバランスで描写している。主人公である警部の妻が主人公の犯人推理を整理して述べるところは少々わかりやすすぎだが、それでも興が殺がれることはない。

ただ、婚姻や、婚姻者の貞操に関する古い概念を下敷きに物語を展開している部分は、すんなり「ああそうだよね」とは飲み込めないし、これほど主人公が(本部に相談はしつつも)独断で動き回れるものかというリアリティーも少し疑問。BMW330iが高級車の象徴のように出てくるところも、車に少し詳しい人ならもう少し設定のやりようがあったろうにと思うだろう。(実際高級車であることには間違いはないが、そう派手派手しい車ではない)

しかし、全体の構成は良く練られていて、筋への興味の惹きつけ方がうまい。ミステリー好き向けのアクションシーンも入っていてサービス精神もある。最近のミステリーは紙数ばかりを費やしてケツが拭けていない作品が多いが、そのあたり厚すぎない一冊で綺麗にまとめているところもいいと思う。読んで大満足とはいかないが、それでも読んで面白かったとは思える。(2014/4/7 記)