ブックレビュー『夫夫円満』


パトリック ジョセフ リネハン、エマーソン カネグスケ(著)


(★★★★★ 星5つ)

「夫夫」と書いて「それぞれ」ではなく、この場合「ふうふ」と読む。原題は”Husbands”。大阪・神戸アメリカ総領事館総領事であったリネハン氏とその夫カネグスケ氏との馴れ初めから結婚、そして日本でのリネハン氏の総領事時代(今年2014春?で任期満了)を通じての生活を綴った本。

もはや欧米では男性同士の夫夫は珍しくもなくなってきたが、この場合は同性の配偶者に日本の外務省が配偶者ビザを発給し、外交上重要な席に同性パートナーを伴っていた例として珍しい。政治的力関係上そうできたという背景もあるのかもしれないが、ともかくそうした実績はできた訳で、日本が外交上のみならず内政上も同性カップルに対してこれから門戸を開いてゆく一つのマイルストーンになったものだろう。

しかし本書はそうした政治的背景よりもむしろリネハン氏のプライベートな生い立ちからクローゼット時代を経てカムアウトするまで、そしてカネグスケ氏との愛溢れる生活にフォーカスされていて、なおかつ、夫同士であることの自然さをわかりやすく説いており、LGBT読者よりもむしろストレートの人々に読んでもらいたい内容になっている。LGBT、殊ゲイにとっては極自然なことなのにストレートからは誤解されやすい実情、例えば、どちらかが女役もしくは妻のようなものでなく対等な夫同士であって、男であることに満足しながら男のパートナーがいて生活していること、などが明快に書かれているからだ。

書は前半がリネハン氏、後半がカネグスケ氏によって書かれていて、出会いの頃のお互いの受け止め方の違いや、境遇が異なっていることについて対比できて面白い。充実した本であり、これからの世の中が開けていって、こうした存在が当たり前である世の中になることを願いつつ読んだ。(2014/8/27 記)