Pet Shop Boys東京公演に行く

平々凡々とした日々を過ごし、「今日の夕飯は何にするかな」などと仕事をしながら考えていた夕方。友人の443からメッセージが来た。443は、もう10数年前、東京のプライドパレードで初顔合わせをして以来、たまに家に来てもらったり、クラブに一緒にいったりする仲で、俺の音の好みを熟知している。

「いきなりですが、今夜のペットショップボーイズのコンサートチケットが1枚余ったんですけど、もしお時間あれば如何ですか?」

行く行く! 実はその2日前、ロイヤル・アルバート・ホールでのコンサート動画をYouTubeで観ていたのだが、最後まで観終わらないうちに削除されてしまい、生で聴いたらどんなだろうかと、日本公演のチケット販売状況までチェックしていて、持っているPet Shop Boysの曲を家で流していたのだった。

急遽、仕事終わりにそのまま武道館へ。九段下には堀の桜を観る人と、コンサートに行く人とで混雑していた。

Pet Shop Boys "The Super Tour"のバナー。
Pet Shop Boys “The Super Tour”のバナー。

このバナーを観て、「ああ、彼らっていつもどこかちょっとダサい感じ(キッチュというよりはその言葉の方がしっくりくる)なんだよね」と、言いながら入場。席はアリーナ席で、そのブロックの一番前、いい席だ。これなら肉眼でもそれなりの大きさで見られる。

開演前。
開演前。

ちなみに公演中もフラッシュを使わなければ携帯での撮影はOK。今はSNSでのバイラルプロモーションも重要。時代の趨勢というやつだ。

きっと客層は40代半ば過ぎの男で溢れているだろうなと思いきや、女性も多い。そして、若い世代も意外にいる。YouTubeで中途半端に見たライブ動画は、おそらくイギリスのどこかのテレビ局の番組だったようだが、途中でクローズアップになっていた観客は分かりやすい中年ゲイで、そうだよな、PSBはそういう層に支えられているんだよな、と思ったところだったので、日本のファン層の独特さに驚く。

7時ほぼきっかりにショーはスタート。その律儀さは、いかにもデジタル世代の先駆者らしい。

俺は彼らの作品を全てつぶさに追ってきた訳ではない。80年代~00年代前まで位の、代表的なヒット曲プラスαを知っている程度だ。なので、最初の曲は耳馴染みがないなと思ったら、2016年リリースのアルバム”Super”からの曲だった(“Inner Sanctum”)。

ヘッドドレスを装着したNeil Tennantと、Chris Loweだが、ビジュアル的に寂しい2人が淡々とライブを行うのでは場がもたなかろう。全体を通じて、ビデオインスタレーションとレーザーが空間を創り出す。デジタルを使いこなしてきた彼ららしく、音楽と完全にシンクロしているのは当然なのだが、感心したのは、そのどれもが、PSBらしい作風であること。そして、御歳64のNeil Tennantの声が安定していることにも感心。香港在住の友人も数日前にライブに行っていたのだが、そこでの動画では「さすがに年かな」と思わせる感じだったのが、スタジオアルバムと遜色のない声で歌っている。

レーザーはふんだんに使われていた。
レーザーはふんだんに使われていた。

曲は、”Super”からはもちろん、往年のヒット曲を多く取り混ぜている。彼らの曲は、フレーズ、特にイントロフレーズが強力でキャッチー。そこがちょっとしたダサさを感じさせる要素でもあるのだが、それが流れると一気にその曲が流れていた時代の空気感を呼び起こす力を持っている。また、セットを移動させる手段が手動だったり(!)、衣装替えが何となくその場で行われたり、舞台デザインも何となくゆるい感じなのだが、そうしたことも含めて全てがPSBのカラーで、そうしたキャラクターを確立させているのもすごいなと、あらためて思う。要するに、PSBはポップなのだ。

そう、ポップ。そして、年はとってもなおNeil Tennantは、アイドルなのだ。ステージを左右に移動し、手を振るたびに、嬉しそうに観客、特に女性が手を振る。そうしたポップさ、浸透しきっているヒット曲の数々、時代のカラーを作ったクリエイティビティー。それらを感じ、「不覚にも」感動している自分自身がいた。実は最初、コンサートに行く前は、綿密に組まれたトラックを流すデジタルライブに、たとえ生のボーカルをかぶせたとしても、それはカラオケを超越するのだろうかと、懐疑的な気分だったのだ。

Neil Tennant。
Neil Tennant。

しかし、これは完璧にライブだった。聴衆を惹き込み、その場を創造・醸成する。スローナンバー”Home and Dry”で、観客がスマホのフラッシュライトをペンライトのようにして揺らし始めて、まさにライブだなあと、感じ入った。

会場全体で光が揺れ動いていて美しかった。
会場全体で光が揺れ動いていて美しかった。

後半の盛り上げにも手抜かりはない。”Go West”で一旦〆て、”Domino Dancing”に”Always on My Mind”とくれば、聴衆は満足。計算されたライブは、計算通りの満足を与えて幕引きとなった。PSBといえば、ゲイ性が明々白々なのにいつもそのことについては曖昧で、ことChris Loweは未だ自分がゲイであることを明らかにしておらず、そうした煮え切らない態度はいつも疑問だった。なので、レビューページでは辛辣に書いているのだが、それでも彼らは音楽的に偉大な財産なのだと思い知った。

終演後、443(右)と。日章旗のかかる武道館で、こうした写真を撮ることもそうあるまい。
終演後、443(右)と。日章旗のかかる武道館で、こうした写真を撮ることもそうあるまい。

奇しくも新元号が発表になったこの日、日章旗を見ながら、会場をあとにした。