シャンパンレビューを久しぶりに。特に対比すべき2本ではなく、備忘録的にまとめて。
Jacquesson Cuvée N°737
Jacquesson Cuvée N°737(ジャクソン キュヴェ737)は、伝統の製法と、元祖マルチビンテージの上質さで知られるJacquessonのスタンダード。以前N°735がかなりの好印象だったので、期待。年次で数字が上がっていく名前がついていて、736を飛ばして、今回は現時点での最新737。
まず737は、736以降、それまでと大きく違っている点がある。それは、BrutからExtra Brutになったこと。ドサージュ(澱抜き後のリキュールによる補糖)はわずか1.5g/l。セパージュ(使用するぶどう品種の比率)は、シャルドネ43%、ピノ・ノワール27%、ピノ・ムニエ30%。意外にピノ・ムニエの比率が高い。
さて、どうだろうかと開栓すると、発酵香と花の香やフルーツの香りが複雑に混ざり合った厚みのある香りはJacquessonらしい。しかし味わいは、コクのある香りと異なるシャープなもの。ムニエの比率が高くてフルーティーさが出る分ドサージュを少なくしたのかどうなのか、その狙いは分からないが、少し戸惑う。食前やオードブルと共に楽しむなら、この程度のすっきりとした飲みくちが合うのかもしれない。が、ややもすると痩せていると思われかねない、液体そのものの深みがほしい印象。
常々思うに、今はエクストラ・ブリュット流行りだが、ドサージュはそんなに悪いこととは思わない。リキュールの質にこだわるメゾンも存在するのだし、また時代がめぐればドサージュも回帰することもなくはないのでは、とも思う。
しかし、もちろん上質さは感じた。これはスタンダードでノンビンテージながら2009年を主に使用しているというから、ひょっとしたらもっと寝かせて熟成を試みると面白いのかもしれない。
Billecart-Salmon Cuvée Nicolas François Billecart Brut 1999
創始者2名のうちNicolas François Billecart(ニコラ・フワンソワ・ビルカール)の名を冠したこれは、もう1名Elisabeth Salmonの名を冠したロゼとペアを成す、Billcard-Salmonのプレステージキュヴェ。
ドサージュは不明だが、Billecart-Salmonのミレジメ(単一年作のビンテージ)はスタンダードよりも少なく、5-7g/lとか。セパージュはピノ・ノワール60%、シャルドネ40%。いつものBSのように、きりっと輪郭のある品の良い酸を期待しながら開栓。
香りはプレステージに相応しい華やかさ。しかし華美ではないところにBSの品格を感じる。そして飲んだところ、こちらもJacquessonと反対に予想と異なっていた。丸いのだ。カチっとした酸が特徴立っているのではと予想していたが、液体の滑らかさ、複雑さのある香り(ドライフルーツやナッツや、ほんの少しの野性味)に見事に溶け込んでいる。
徹底した破綻のなさ。きめ細やかな泡は、エキス分豊かな中身を表すように、ゆっくり立ち上ってくる。優しく、メゾンの伝統や格式を誇示するよりも、歴史に磨かれた建造物や美術品が持つ奥ゆかしさを感じさせる円熟。
プレステージなのだから、もう少し派手さがあってもいいのでは、と思う一方で、このフィネスは心血注いで作られた証だなとも思う。酔い心地ももちろん軽く、さほど酒に強くないのにするする飲めてしまう。優雅で、品の良さは天下一品。
ちなみにじょにおの印象は
大変おいしくいただきましたが、好みど真ん中ではなかった
と、相変わらず厳しい。(笑)
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特に対比すべき2本ではない、と書いたが、香りやイメージからの予想と味わいとがそれぞれに異なり、そういう意味では面白い。
イメージだけではやはり分からず、実際飲んでみて初めて得るものがあるのだなと思わせた2本だった。