Philipponnat 崇高な甘美


ハワイ旅行から帰ってきたら旅を思い出しながら夜飲もうと買っておいたこれ。帰国当日は疲れてしまっていて、飲んだのは結局、翌日の夜。

金色のラベル。
金色のラベル。

Philipponnat Sublime Réserve Sec 1996(フィリポナ シュブリム・レゼルヴ・セック 1996)

Philipponnatは読み慣れない日本人が見たら、「フィリッ…ポン…ナット」と、つっかえ、かつ間違えて読みそうだ。ここはさらりと、フィリポナ、と読みたい。日本での知名度はあまりないと思うが、成り立ちは1522年に遡り、トップキュヴェには単一畑の名称を冠したシャンパーニュを持つ、地味ながら名門のメゾン。

さて、この1本は1996年のミレジメ(単年作のビンテージ)。Sec(甘口)で、ドサージュ(澱引き後に補糖するリキュール追加量)は30g/lと、辛口流行りの中珍しい造り。セパージュはシャルドネ100%だから、ボトルに記載はないがblanc de blancs。

今回は結論から書いてしまうが、これはとてもとても良かった。デザートワインを楽しめる人なら、その素晴らしさが分かるだろう。そしてただ甘美なだけでなく、優美で奥深い。甘く華やかで可憐で、人に優しく寄り添いながらも芯の強さもあって、いわば、おっとりしていてほがらかなのに才気豊かな貴婦人のよう。

16年も経っているとガスは落ち着いていて、泡立ちは穏やか。開栓時にあまりコルクを押し上げてこなかった。出たがりでないのも品のいい貴婦人らしいところ。(笑)グラスからは細かい泡がゆっくり立ち上り、蜜色の液体がゆらめく様からして優美。SecのシャンパーニュといえばTaittingerのNocturne Secを以前飲んだが、それこそノクターンでも聴いているようだ。

そしてフルーツコンポートや白桃の甘くこっくりとした香りに、蜂蜜というよりは花の蜜そのままのようなふわりと華やかな香りも合わさり、一口飲んだ途端にその世界に惹き込まれる。そして、重過ぎないが説得力のある味はただ甘いだけでなく大人だからこそ楽しめる奥深さを備えていて、どこか懐かしいような、日本人にとってのエキゾチシズムとしてのヨーロッパを感じながら、杯を重ねることになる。

蜜色の液体。
蜜色の液体。

飲み進めると、香りも味もだんだん深味を帯びてくる。これがぶどう1つから造られているのかと驚くほどの複雑さも見える。そして終始エレガント。買った時、「名前にSublimeと大仰についているけれどどうなんだろうな」と訝る気持ちもあったが、そんな疑念を抱いたことを恥じた。まさにSublime。Philipponnat Sublime Réserve Sec は、記憶に残る1本となった。機会があれば是非もう一度、この貴婦人に会いたい。

しかしこれに夢中になってしまい、飲みながら旅の話などほとんど出ませんでしたとさ、めでたしめでたし。