André Beaufort Rosé Doux 甘美な自然


寒い冬の夜には、甘口のデザートワインがいい。アイスワインもいいけれど、極甘口のシャンパーニュという選択もある。今回選んだのはこの1本。

André Beaufort Rosé Doux(アンドレ・ボーフォール・ロゼ・ドゥー)。シャンパーニュの中で最も甘口のDouxだ。単一年のものもあるが、これは92年と98年のブレンド。

André Beaufort Rosé Doux
André Beaufort Rosé Doux

シャンパーニュは、瓶内発酵後の澱引き時に加える補糖(ドサージュ)の量により、Non-Dose < Brut < Demi Sec < Sec < Douxの順で甘くなる。もともと食後酒として供され甘口だったシャンパーニュは、人気とともに食事と合わせられるようになって辛口がもてはやされるようになり、最近ではNon-Dose(ドサージュゼロ ウルトラ・ブリュットとも)も目立ち、反対に、DouxやSecを作る所は少なくなった。今回は休みにまったりと楽しむために甘口のを探していたので、André Beaufort Rosé Douxは貴重な1本。

André Beaufortは、自然農法(ビオディナミ Bio dynamic)で知られたシャンパーニュメゾンだ。今、シャンパーニュメゾンはどこも自然農法へとシフトしているらしい。先駆者的にそれを行なってきた所はどこも評判がうなぎのぼり。となると、当然いい値段で取引されるので、収量が科学農法に比べて減っても、収支的には救われるし、土壌が長持ちするので、総合的・長期的な目で見れば、そのうち釣り合いが取れてくる。

ビオディナミは、オーストリアの思想家ルドルフ・シュタイナーによって提唱された自然農法で、1924年のシュタイナーの講演に基づくのだとか。ビオというからには、化学肥料や農薬を使わないのはもちろんだが、それより面白いのは、ビオディナミ農法では太陰暦に基づいた「農業暦」(ビオカレンダー)に基づいて農作業を行うなど、根本が神秘主義的であること。水晶の粉を砕いて雌の牛角に詰めて半年間土に埋めたものを希釈して散布すると根を強化する、など、不思議な内容も。

ビオを採用するところは前述のように増えていて、シャンパーニュでは「ビオ」というのは、もはや一ジャンルでさえある感じだ。神秘主義の生きていた時代への回帰的な傾向が見られ、これに影響を受けて、現代にあって耕作を馬によって行うメゾンも中には出てきているなど、ちょっとびっくりな事もあるのだが、いずれにせよ、化学肥料や農薬を使っていないというのは安心。(ボルドー液を使うところはあるようだし、醸造後のワインに酸化防止剤を添加する所もあるようだ)ちなみにAndré Beaufortでは、ドサージュにも有機栽培のブドウ濃縮果汁を使い、砂糖は使わないのだとか。体にやさしいというのを徹底した結果らしい。

André Beaufortは徹底した自然農法を用いるビオを実践する先駆者的存在であるのだが、それだけでは名声を博し得ない。味わい・品質が人気の元であるというので、ビオのことは頭の片隅に置いておいて、素直に飲んでみることにした。

Douxに合わせるのは何がいいかと思案し、ピエールマルコリーニのナッツとフルーツを練り込んだビターチョコレートを一緒に。

こんな割れチョコみたいなのが結構いいお値段だった。
こんな割れチョコみたいなのが結構いいお値段だった。

そしてアーモンドとアプリコット入りのクリームチーズも用意して、ちょうど夜に届いたKylieのLes Folis Live In LondonのDVDを観ながら楽しむことに。

なんだかすごい光景だ。(笑)
なんだかすごい光景だ。(笑)

開栓してまずびっくりしたのは、コルクが短くて細いこと。そして手作り感いっぱいの(笑)ミュズレー。

チョコレートの写真を撮ったつもりの所にコルクとミュズレーもあったので、この写真で。
チョコレートの写真を撮ったつもりの所にコルクとミュズレーもあったので、この写真で。

発泡は極穏やかで、泡は細かい。しかし、細く長く続く。香りはベリーのような香りと、ダマスクローズのような香りが合わさったような芳醇で豊かなもの。色は濃く、透明ではあるが深い。口に含むと、グラスの中では穏やかに見えた泡が舌全体に感じられる。Douxだけに当然甘いのだが、甘味の中に少しの渋味や、いわゆるテロワールもあって、酸味も適度にあり、深く、デザートワインとしては、とろみがあってはちみつのようなアイスワインとはまた違った味わい。セクシーで、しかし気取ってはいなくて人に寄り添う優しさがある。フェルベールのアルザス産いちごのバラ風味コンフィチュールを思い出させるような味。

深い色の中央に浮かぶ細かな泡が写真で分かるだろうか?
深い色の中央に浮かぶ細かな泡が写真で分かるだろうか?
デゴルジュマンしたシャンパーニュなのに、底には少しの澱。
デゴルジュマンしたシャンパーニュなのに、底には少しの澱。

チョコレートやクリームチーズとのマリアージュも完璧。そうそう、ピエールマルコリーニのこのチョコレート、ミルクとビターがあったうち、シャンパーニュの甘味に勝らないようにとビターを買ってきたのだが、実に深い味で、チョコレートの方も陶酔できる。André Beaufort Rosé Douxと完璧にマッチするのに、チョコレートを食べている時にはピエールマルコリーニ独自の世界。お勧めのチョコレート。

するする飲めて、あっという間に甘美な時間は過ぎてしまったのだが、これを飲んで、甘口でないAndré Beaufortはどんな感じなのだろうかと、とても興味が湧いた。そのうち飲んでみることにしよう。