音楽レビュー Joan Armatrading


This Charming Life (2010)


(★★★☆☆ 星3つ)

黒人でフォークロックをやっているという珍しい人。Tracy Chapmanとよく対照されるようだ。フォークといえば、日本では歌が下手、陰鬱、ブス、自意識過剰と相場が決まっていたが、そういう意味ではJoan Armatradingはいかにもフォーク。人の神経を逆なでするようなイライラする声質と、妙なビブラートのかかりっぱなしの声は、中島みゆきのようだ。(ちなみに昔Tracy Chapmanが流行っていた時、とあるFMラジオで「お前は黒い中島みゆきだ」とTracy Chapmanを指して言っていたディスクジョッキーがいた)

では何故そんな印象のソングライターの作品を聴く気になったかというと、1988年のアルバム”The Shouting Stage”の印象が鮮烈だったからだ。その頃も歌が下手、陰鬱、ブス、自意識過剰といった印象ではあったが、人の心の黒い部分、ボロボロの恋愛をしている人間の悲惨な心の叫びを、ダークな声で(しかし中島みゆきよりは遥かに上質に)描き出すJoanは、たまに心の深淵を覗き込みたくなる気分にフィットしていて、今(2010年)どんな世界を描いているか、聴きたくなったからだ。

で、やはり歌が下手、陰鬱、ブス、自意識過剰。声などは1988年のアルバムの方が深い気さえする。しかし、音楽に賭けている気概は感じる。まあこういう人がいてもいいのではないかと思う。音楽に美しさや癒しを求める人には、お勧めできない。それでも「何か」がこの人にはあって、それがこの人の作品の意義であるのだろう。