Symphonica (2014)
(★★★★☆ 星4つ)
10年ぶりのアルバムはオーケストラを従えたライブ盤。曲構成としてはさほど瞠目するような内容ではないが、George Michaelはやはりスターなのだなと思わせる。恐らくリリース第1週にはUKチャート1位を記録するだろうと思っていたKylie Minogueの”Kiss Me Once”を抑えての1位は、ほかならぬこのアルバムだったからだ。
しかし、薬物依存だ何だとあって、ボロボロになったかと思いきや、喉を保っているのには驚く。みずみずしい声はWham!の頃と変わっていないんじゃないかと思えるほど。ロンドン五輪の閉会式には余りヒットしなかったシングルを口パクでやって叩かれもしたが、歌う力がこれほどあるとは恐るべし。
そして曲の数々を聴くに、秀でたソングライターでもあるということを再確認した。10年ぶりのこれが新しい曲だけ揃えたオリジナルスタジオアルバムでなかったことは残念だが、聴く価値がある。(2014/4/11 記)
Patience (2004)
(★★★☆☆ 星3つ)
アルバムジャケットは静かだが、訴える内容・手法ともに世間的には過激。シングルのリミックス版もSharp Boysを起用するなどしてアグレッシブな音になっている。ソニーとの泥沼の闘いも終わり、ゲイだとバレて恐いものはなくなったのだろう。
翌年には長年お騒がせだったいきさつや内情(特にゲイとしての自分)を語った映画”A Different Story”が出ている。これから先、George Michaelは引き続きハッテン問題やらドラッグ問題やらを起こし続けて、彼が映画の中で自ら語った”a massive star”としての存在の苦悩は大きいようだ。周辺事情がかまびすしすぎて、アルバムの印象が薄くなってしまったのが残念。
Songs From The Last Century (1996)
(★★★★☆ 星4つ)
トイレハッテン事件でGeorge Michaelはもう申し開きできず、逆にゲイとしての自分を猛烈アピール。逮捕後のシングルは名前が”Outside”だし、PVではキンキラキンのトイレが出てくる警官はキスする、リミックス版のジャケット写真は手錠をはめた手と、世の意地悪ネエサン達はGeorge Michaelのビッ●ぶりに大喜びしていたことだろう。
が、このアルバムはジャズアルバムで極めてシックな出来で、キャリアのあるアーティストとしての貫禄を見せている。George Michaelがジャズというと違和感もあるだろうが、ファーストアルバムにも”Kissing A Fool”というシックなナンバーがあって、歌唱力もあるし、こういうアルバムがあってもいいと思う。
Older (1996)
(★★★★☆ 星4つ)
もうこの頃にはGeorge Michaelはゲイだというのは誰もが周知の事実として知っていたことだが、まだあの1998年の事件(ロサンゼルスの公衆トイレでおとり捜査警察官相手にセックスをしようとして逮捕)というで動かし難い事実となる前。しかし、このアルバムジャケットの写真はあまりの変わり様がすごくてびっくりした。問わず語りのカミングアウトだったからだ。
音楽自体は人にショックを与えることなく、George Michaelらしいメロディーのしっかりした曲が多く、また1曲目の”Jesus To A Child”は亡きパートナーに捧げられたものだが、新境地をひらいている。
Listen Without Prejudice Vol. 1 (1990)
(★★★☆☆ 星3つ)
アーティストとしての自立と、より自分らしさを求めたアルバム。それはタイトルが簡潔に示すとおりだ。タイトルがVol.1となっているが、これは発表当時、よりダンス・オリエンテッドなVol.2を企画していたかららしい。(結局Vol.2としては出なかったが、それについては後述)
このアルバムの市場での受け止められ方は厳しかったようだが、それでも絶対数は出ている。世はバブル時代末期、スーパーモデルをフィーチャーしたシングルカット曲”Freedom! ’90″は受けがよかったようだが、このアルバムにある他の曲のような質実さはこの時代の求めるものではなかった。個人的にも、”Freedom! ’90″以外に印象に残って繰り返し聴きたいと思う曲は思い浮かばなかった。
このアルバムが出てから、HIV/AIDSチャリティープロジェクトのコンピレーション・アルバム”Red Hot + Dance”にも”Too Funky”という曲を提供し、スーパーモデルをフィーチャーしていたが、それがVol.2の候補曲だったようだ。”Red Hot + Dance”には他にも曲があって、それもVol.2を想像させる。出ていたら、聴きたかった。
Faith (1987)
(★★★★★ 星5つ)
Wham!ではなくGeorge Michaelとしてのこれを聴いた時には、ああ、やっぱりAndrew Ridgeleyははっきり言って足手まといだったんだなと思った。ポップさ、声、才能、キャラクター、そして外見、どれもGeorge Michaelの方が上回っていた。それはもう周知の事実だったから、出るべくして出たアルバムというか、足かせが取れて才能を存分に発揮することを許されたアルバムと思う。
ただ、ソニーとはこの後関係がこじれて訴訟にまでなったから、これはまだ彼自身ではなかったのかもしれない。このアルバムを出した時に、まだゲイだと公言していなかったように。それでもこれは、音的にも、アーティストの道標としても、聴くべきアルバムと思う。