音楽レビュー Prince


Originals (2019)


(★★★★★ 星5つ)




衝撃の死去から3年。他のアーティストに書いた曲をPrince自らが歌うこれが出た時は、商魂逞しいなと思ったが、聴かずにはいられなかった。そして、聴いて才能の偉大さに打ちのめされた。恥ずかしながら、このアルバムに収録されているうちの数曲は知らなかった(”Gigolos Get Lonely Too”など)。Princeの手になる曲だったということを知らなかった曲もある(あのBanglesの”Manic Monday”が彼の手によるものだったとは!)。

どの曲も、それぞれにスタイルがあたえられているのは当然なのだが、こけおどし的な虚飾がない。ポップ、R&B、ファンクといったジャンルを超えて彼の曲が愛され、ヒットしたのは、曲の骨子がしっかりしているからに他ならない。そして、自分が演っても、他のアーティストが歌っても、それぞれに素晴らしい。他人の魅力を引き出すこともできれば、自分も輝いているという、大変稀有な存在だったのだとあらためて認識する。

一曲一曲について語れば際限がなく、そしてPrinceの偉業と存在意義についても語れば尽きることがない。それに、コアなファンを大勢抱える彼について、ここであらためて語るもおこがましい。ただただ、メモリアルたるこのアルバムによって、俺の好きな音楽のルーツに深く根ざしていたPrinceという存在の凄さを思い知った。そして、このアルバムに収録されている曲がヒットしていた頃にリアルタイムで聴いていたことの幸運さをも。(2019/7/3 記)

HitnRun (Phase Two) (2015)


(★★★★☆ 星4つ)




下記Phase Oneに続き突如昨年末にリリースされた本作Phase Two。タイトルが示す通り、2作品で1つと解釈するのがよいのだろう。アナログやCD時代であれば2枚組で出たはずだ。今のところデジタル配信のみで、CDでの扱いはない。

さて内容だが、Oneよりもリラックスした感じの曲が多い。今の時代のPrinceらしく、こけおどし的エレクトロサウンドはなく、このままライブでできそうな編成で自然な音を聴かせている。Princeならではの、各構成要素がクリアに聴こえる録音とも相まって好感。Princeはその風貌もあって、デビュー当時にはさんざん異端扱いされたものだが、こうして聴くとエッセンシャルな音楽をきちんとおさえた正統派の曲を書き、演奏し、歌うアーティストとしての素養に溢れているのを感じる。

全体に心地よく(Princeに心地よさを感じるとは!)、それでいて新しい曲を書き続ける意欲もアルバムリリースの形で示されていて、曲がきれいであればあるほど、まさに鬼才Prince健在といった凄さを見せつけられる。(2016/1/18 記)

HitnRun (Phase One) (2015)


(★★★★☆ 星4つ)




ファンキーなPrinceが帰ってきた。オープニングナンバー”Million $ Show”のSEにはかつての曲のイントロのチラ見せならぬチラ聴かせもあって、自分の立ち位置を再確認したようだ。そしてその曲にはあのJudith Hillが大々的にフィーチャーされている。これには多分PrinceがJHに対する負い目があって、その埋め合わせなのでは、などと思ってしまう。というのも、PrinceがプロデュースしたJHのデビューアルバムのプロモーションで、Princeが勝手にアルバムをフリーダウンロード公開をしてしまい、レーベルと一悶着起こしたということがあったからだ。そのせいか、リリースが危ぶまれたが、JHのデビューアルバムは無事10/23に決定したようだ。

話はすっかり横道に逸れてしまったが、このアルバムはPrinceらしさ全開で、かつてのキレを取り戻したようだ。思えばかなりの長いキャリアをもつPrinceだが、ボーカルパフォーマンスが衰えを見せていないのはすごいことだ。才能に溢れているだけでなく、自分を保つことに長けた人なのだろう。そういえばスターなのにスターにありがちなスキャンダラスな話もあまり聞こえてこない。

ところで、気になる点がなくはない。収録曲 “Fallinlove2nite”が、Princeがかつてメンバーであったリ・フォーメーションバンドであるThe Original 7Venが2011年に発表したアルバム”Condensate”中の”If I Was Yo Man”そっくりのコード運びなのだ。自分がいたチームの焼き直しならばいいのだろうか、たまたま似ただけなのだろうか。因みにThe Original 7Venは、PrinceのカラーよりはJimmy Jam & Terry Lewisのカラーの方が全面に出ているのだが。

話がまた逸れてしまったが、大局的に見ると、ファンクは今のメインストリームからは外れているが、Princeはしっかりとファンクを体現できる稀有な才能として、これからも活躍し続けてほしい。(2015/9/28 記)

Art Official Age (2014)


(★★★☆☆ 星3つ)




前作のなんとも景気の悪い感じから、少し持ち直した。といっても豪華になったのではなく、音がソリッドになった印象。これはまず曲云々と別に第一印象として音作りがすごいと感じた。各セクションの音がくっきりしていて、こんなに明瞭なレコーディングができるのかと驚く。音数が整理されている分、各々のクオリティーが高いと感じられる。”20Ten”で貧乏臭いと感じられたのは、そこが足りなかったのだろうかと思う。

曲だが、疾走感はない分、ゆったりロールしながら流れていく。Princeも年を取ったのだろう。そしてコンセプチュアルな感じがし、それぞれがPrinceらしさを漂わせている。少しボーカルが抑え気味になっているのは、未だ”Purple Rain”を懐かしむ世代としてはガナッてほしいと思うむきもなくはないが、これはこれ。ただ、そのゆったり感とコンセプチュアルな作りゆえに、このアルバムは一般受けはしなさそうだ。(2014/10/3 記)

20Ten (2010)


(★★☆☆☆ 星2つ)


久しぶりのPrince。破竹の勢いで、自らの活躍で名を轟かせたのみならず、Sheila EやApollonia 6などをプロデュースして音楽界に君臨していた彼を知っていると、このアルバムは何とも貧乏臭い音で、少し悲しくなる。やる気を感じないというか。

しかし一方でいい見方をすれば、肩の力が抜けてこなれた、ということもできなくはないのかもしれない。ローファイのサンプリングハンドクラップなどが聴こえてくると、その音は紛う方なきPrinceで、「俺は俺だ!」という主張にも思えるが、Princeに必要な何かが感じられない。それが時代というものなのだろうか。今の不景気を象徴しているような感じがした。