音楽レビュー Janelle Monáe


Dirty Computer (2018)


(★★★★☆ 星4つ)




デビュー時にタキシード姿で鮮烈な印象を与えたのみならず、独自の優れた音楽性でポピュラリティーを獲得したJanelle Monáe。その後のアルバムはいずれも一枚を通じて物語を作り上げるコンセプチュアルな物だった。

本作もまたDirty Computerと名付けられており、これは前2作のマシン的世界を受け継いだものだが、このテーマに関してはアルバム制作前10年に渡って考えてきたもので、清潔なアンドロイド(としての前作までのイメージ)は彼女自身よりも受け入れられやすいイメージだったので、本作には後述のセクシャルアイデンティティーなど、より濃く彼女自身のことが反映されているのだとか。

という言にもかかわらず、作風としてはコンセプチュアルなタッチは幾分薄れ、一曲一曲が聴きやすくなった気がする。それは各曲がインタールードを設けるなどアルバムシークエンスを演出するやり方よりも、それぞれの曲がその意義を独立して大事に作られているからなのだろうと思う。

そしてこのアルバムを聴く時、故Princeのことに触れないわけにはいかない。Janelle Monáeは先行シングル”Make Me Feel”でPrinceとShiela E.の協業を思わせるとかPrinceの”Kiss”との類似性を指摘され、実はアルバムでの協業が進行していたという話を認めているが、Janelle Monáeの本作を聴いても個人的には彼女独自のものに昇華していると感じた。

今年に入って自らがバイセクシュアルであることを公に認めたJanelle Monáe(指向が時により変わるパンセクシュアルであるとも報じられている)。従来よりさらに自由になり、セールス的成功も得て、大きく飛翔することだろう。R&B史的に、このDirty Computerは重要な一枚になるかもしれない。(2018/5/15 記)

The Electric Lady (2013)


(★★★★☆ 星4つ)

強烈な個性を押し出していた前作に比べ、ずいぶん聴きやすく、「売り」に転向した感がある。共演アーティストも様々で、Prince (いつの間に名前を記号から元に戻したのだろう)、Erykah Badu、Solange等とずいぶん豪華。ただしPrinceをフィーチャーした曲は肩すかしもいいところで、全くPrinceの良さが出ていなかったし、意外にもErykah Baduとは似すぎていてPVを見てさえどっちがどのパートを歌っているのか分かりにくかったが。

あまりにコンセプチュアルだった前アルバムからすると、この聴きやすさという進化は良い方に捉えるべきだろう。彼女がちゃんとした歌唱能力を持っている、こけおどしではないことが分かるからだ。
意外だったのはJackson 5のカバーの”I Want You Back”。実にみずみずしいアコースティックな編成で、まるでAdriana Evansかと思うようなフリーソウルっぽい仕上がりだった。(2013/10/14 記)

The ArchAndroid (2010)


(★★★☆☆ 星3つ)

Janelle Monáeの個性は卓越していて、コンセプチュアルなアルバム作りからしてそれを表している。未来からやってきた彼女が現代に落としこむ音楽は、古代インドの叙事詩のように謎めいている。Suiteと題されるInterludeが入っているのは、彼女の複数のアルバムに渡るその物語の断片挿入であり、非常に興味深い。

一応R&Bに分類したが、ジャズファンクのようなナンバーもあり、ロックもあり、守備範囲は広汎。ただ、どれも聴きにくい。流れていて快適かというとそうではないという意味で。つまり、そこに何らかの意味を見出させようとする音作りがなされているのだ。ポテンシャルは感じるものの、難しいなと感じさせられた。(2013/10/14 記)