音楽レビュー Daniel Caesar


Case Study 01 (2019)


(★★★★☆ 星4つ)




素晴らしいデビューアルバム”Freudian”は大成功し、グラミーにもノミネート。瞬く間にビッグネームとなったのは、このセカンドアルバム”Case Study 01″(オジリナルタイトルは全大文字の”CASE STUDY 01″で、そこには何らかのこだわりがあるのだろうだが、このサイトでは”Case Study 01″と書いておく)のフィーチャリングアーティストにもまた表れている。BrandyやPharrell Williamsといった、どちらかというとR&Bというよりはポップなアーティストが参加していることで、Daniel Caesarがメジャーな存在になったのを認識させられる。

世界観は”Freudian”に引き続いてのもので、気だるさと物憂さをミッド~スローテンポの、音数の整理されたアコースティックな編成で聴かせるもの。最初このアルバムを聴いた時には、”Freudian”ほどにハッとさせられるものがない?と思ったが、2回目、3回目と、聴くほどに独自の世界観に引き込まれていく。BrandyやPharrell Williamsをフィーチャーした曲も、完全にDaniel Caesarの世界に統合されていて、ちぐはぐな感じはない。

今年3月、Daniel Caesarは酔った状態でインスタグラムに人種を巡る発言を投稿し非難を浴びたが、それはポリティカル・コレクトネスの観点から諸説あるところ。しかしながら、それは彼の作品を高評価するべきではない種類のものではない、と俺は思う。対立や差別を煽ったり、誰かの人権を傷つけるものではないからだ。

話が逸れたが、このCase Study 01は、セカンドアルバムであるにも関わらず01と名付けられているとおり、初作の成功に次ぐ続編というよりは、彼がまた新たな世界を探求しようとしているもののように思える。聴く価値のあるアルバム。(2019/8/4 記)

Freudian (2017)


(★★★★★ 星5つ)




タイトルの”Freudian”とは、フロイト派のこと。少し寒くなりかけた頃、曇りがちな空を窓から眺めるような、影のあるアンニュイな音。カナダトロント出身のR&B/ソウルアーティストDaniel Caesarは、精神性の高い音を届けてくれる。Lynden David HallKEM、D’Angeloあたりが好きなら、即座にはまるはずだが、彼らとはまた明確に違った世界を持っている。

繊細な歌声と、計算し尽くされたトラック構成、速からず遅からずの絶妙なミッドビートが絡み合い、何かをしていてもこの音楽がかかると思わず手を止めて聴き入らずにはいられない、そんなパワーを持っている。決して押し付けがましくなく、ひたすら自分の世界を掘り下げている清潔さが、なおさら力を持って訴えかけてくる。久しぶりに求めていたものを聴いた気がする。カナダ出身のR&B/ソウルシンガー?と疑問に思う向きには、(毛色は全く違うが)我々は散々Deborah Coxを堪能してきたではないか、と言っておこう。(2017/10/20 記)