音楽レビュー Brian McKnight


Better (2016)


(★★★★☆ 星4つ)



実に品が良い。爽やかで正統派の男性R&Bアーティストといえばこの人は筆頭に挙がる。それだけに、アクやインパクトの強さ、コマーシャリズムに如何に乗れるかなどがヒットを左右する今にあっては、名アーティストでありながらどこか一つ引っ込んでいるように感じられるが、このアルバムではそれでも良心を突き詰めている誠実さを感じる。スタジオでの一シーンをアルバムジャケットにしているのも、真摯に音と向きあおうとする姿勢の表れだろう。

音は過度にオールド・スクールすぎず、適度にシンセサウンドも採り入れているが、妙なこけおどしのエレクトロサウンドはなく、聴いていてほっとする。歌い方は、少し肩の力が抜けた感じがするが、しかし決して手抜きではない。
そうした中庸さは音楽が退屈になる危険をはらんでいるが、そうはならないところがBrian McKnightの才能だろう。一聴すると素直そうな曲なのに、テンションコードから始まったり、少しジャズ的なアプローチを感じるところもあって、ジャンルがR&Bに留まらない可能性も感じる。良質なブラックミュージック好きには是非勧めたい。因みに、優秀なアーティストは昨今自身のレーベルを立ち上げるケースが多いが、このアルバムもセルフレーベルからのリリース。応援したい。(2016/4/13 記)

Just Me (2011)


(★★★☆☆ 星3つ)

キャリアも長く、実力もあり、名も知られた人なのだが、何となく今までまともに聴かないでいた。個人的に記憶があるのは、1999年にリリースされたシングル”Back At One”のハウスリミックスくらいだ。よく言えば堅実、悪く言えば地味な印象で、このアルバムもそんな感じ。ジャケット写真とタイトルからして体現されているように、よく言えば質実剛健、悪く言えば華がない。

曲として面白かったのは、Wham!の(というよりGeorge Michaelの)”Careless Whisper”がカバーされていること。ただ、ジャズナンバーのようなバックのハーモニゼーションとメロディーラインが合わないような気がした。Nancy Wilsonがその昔やはり”Careless Whisper”をカバーしていたが、その方が素直でよかった気がする。
もとい、Brian McKnightの”Careless Whisper”はジャズっぽかったが、他の曲は虚飾のないアコースティックなR&Bという感じ。多分本人も自分の立ち位置がよく分かっているのだろう、アルバムは2枚組になっていて2枚目はライブ盤なのだが、そちらは構成もより削ぎ落とされてピアノ+ボーカルが主体のアンプラグドな雰囲気で、「好きなら聴いてね」といった感じの形態。

全体としていうと、このアルバムというかBrian McKnightには知性を感じるし、音楽に対する誠実な態度がひしひしと伝わってくるし、かかっていると自然に耳が行く感じではあるのだが、どうも決め手に欠けるというか、上品すぎるというか。じっくり聴き入るといいのかもしれないが、少なくともこのアルバムに関しては、個人的にお気に入りになるとは言い難かった。