音楽レビュー Incognito


IncognitoのリーダーBlueyのソロについてはBlueyのページを参照

Tomorrow’s New Dream (2019)


(★★★★☆ 星4つ)




“Tomorrow’s New Dream”と題されてはいるが、紛う方なきIncognitoカラーのアルバム。よく言えばタイムレスな、悪く言えば代わり映えのない「あの音」が聴こえてくる。特段奇抜なことを期待したい訳ではないので、これで正解。安定の音のバリエーションがあればいいのだと思う。

ボーカルを取るフィーチャリングアーティストにしても、「今回は誰かな?」と思うよりも「あの人がフィーチャーされているかな?」という期待をもって見る。と、Maysaが復活している。やはりMaysaのボーカルとIncognitoの音は、Incognitoのルーツを感じさせる相性の良さでいい。しかも1曲だけでなく、”For The Love Of You”では、あのPhil Perryとのデュエットが実現。何とも贅沢だ。しかもしっとり系のバラードでなく、軽快な曲調であるのがいい。FAでは、懐かしのTake6の名も見える。スリリングなコーラスワークがさすが。初フィーチャーだと思うのだが、いいなと思ったのはJames Berkeley。新しい才能の発掘に抜かりないのもBlueyの特徴の一つ。

Incognitoのアルバムを集めたプレイリストでシャッフル再生すると、やはり新しいアルバムでも気づかず流れていってしまうのだが、それでもどこか新しさを挙げるとすれば、よりジャズっぽくなったというところだろうか。インストゥルメンタルの曲では特にそれを色濃く感じる。R&B/ソウルやアシッドジャズとのクロスオーバー的サウンドから一つ抜け出た可能性が見いだされ、そこがIncognitoとしての”Tomorrow’s New Dream”なのかもしれない。(2019/11/24 記)

In Search of Better Days (2016)


(★★★★☆ 星4つ)



Incognitoのアルバムは聴き分けがつかない。永遠のホーンセクション、連綿たるローズピアノがいつの時代もIncognitoの無限回廊に聴者を引き込む。それはエッシャーの階段のようで、ぐるぐる回って聴いていると、どの時代のものだか分からなくなる。同じ犬種の犬の顔を見分けるように、ワインの微妙な違いを味わい分けるようにして楽しむのがIncognitoを聴く方法だ。

さて、ゲストボーカルには90年代からずっとお馴染みMaysaもおり(今回は4曲も参加している)、そんな訳でいつものアレにしていつものアレといった趣き。ただ、猿山の猿を見分けるようにして注意深く耳を傾けると、ホーンセクションのフレーズは短くキレの良い感じがしていたり、無調性のような中自在にボーカルが生きる高度な音楽を演っていたりと、深化は見られるようだ。

そして毎回ゲストが誰かというのが注目されるところだが、今回個人的に注目したのはAvery Sunshine。調和を保ちながら埋もれることなく個性を発揮している。日本の聴衆には”Bridges Of Fire”のFeaturing Tomoyasu Hoteiという文字が驚きをもって迎えられるだろう。アシッドジャズ/R&Bファンなら知っておくべき一枚。(2016/7/16 記)

Amplified Soul (2014)


(★★★★★ 星5つ)




結成35周年を記念してのスタジオアルバム16作目。連綿と、という言葉がこれほど似合うバンドもない。いつもどのアルバムを聴いているのか分からなくなるのはマンネリというべきかアイデンティティーというべきか。

このアルバムも、まごうかたなきIncognitoなのだが、強いて特徴を挙げるならばボーカリストのテコ入れがあるだろう。オープニングナンバーではTony MomrelleがいかにもIncognitoの世界の始まりを告げる歌い出しを飾り、”Rapture”(あのAnita Bakerの名曲ではない)でのImaniは軽快な中にはっとするような節回しで曲に引き込むなど、様々にボーカリストのフィーチャーを使い分けているが、個人的には”Another Way”であのCarleen Andersonがまた入っているのが嬉しい。あの、粘っこく高く高く伸びる声がIncognitoと絡むと、まさにシナジーといっていいグルーヴが生まれ、それは心地よさの極致。ちなみにこの曲は作詞作曲も彼女の手によるのだとか。

まさに継続は力なりというか、金太郎飴状態にずっと星4つな感じだったが、ここまでカラーを統一していて輝きを失わないのは見事。そこに敬意を表して星5つ。(2015/3/17 記)

Surreal (2012)


(★★★★☆ 星4つ)




シュールレアルと名付けられていながら、アルバムジャケットがシュールなのかどうかはご愛嬌というところ。(笑)シュールなサウンドは聞こえてこない。ローズ・ピアノあるいはウーリッツァーのコードバッキング、イントロを務めるブラスの細かいパッセージと、いつもながらの音は徹底的に現実的で、聴きやすいIncognitoの音なのだが、目新しいのは男性ボーカルがフィーチャーされている点。違和感なく聴けるのはもちろんで、他にMaysaがフィーチャーされている曲もあるから、ますます「いつもの」感がする。本人達はどれがどの曲だか、区別がつくのだろうか。(笑)

Transatlantic RPM (2010)


(★★★★☆ 星4つ)




よく言えば自分達のサウンドスタイルを確立している、悪く言えば金太郎飴でどのアルバム・曲を聴いても代わり映えがしないIncognitoだが、このアルバムではマンネリを脱して新鮮なスタイルを打ち出すことに成功している。

大きな要因のひとつは、ゲストボーカル。あのChaka Khanが数曲披露しているが、Chaka Khanに支配されてしまうことなく、Incognitoとしての新スタイルとしてのノリが生み出されている。そして、いつものあの展開という、予測された音もあるのだが、「何かが今までとは違う」と感じさせるメロディー運びや展開があって、BGMどまりであり続けたIncognitoに耳を奪われるという新鮮な驚きがある。

More Tales Remixed (2008)


(★★★★☆ 星4つ)




前作”Tales From The Beach”のリミックス盤。リミックス盤ではあるが、IncognitoはIncognitoだなあ、という感じ。ラウンジからクラブラウンジ向けになった感じで、Incognitoだけに激しいアレンジはなく、さらっと聴けるハウス。しかしさらりとしすぎていて、若干印象が薄い。昔Roger Sanchezなどがリミックスしていた向きを期待すると、少し裏切られるかもしれない。