音楽レビュー Gregory Porter


Nat “King” Cole & Me (2017)


(★★★☆☆ 星3つ)




音楽のクオリティーに文句はない。では何故星3つか。今まで果敢な挑戦姿勢を鋭い歌詞と共に届けてきたことが、カバーアルバムゆえ見られないこと。そして、あまりにもクラシックすぎて、Gregory Porterならではの良さがよく分からないことが主な理由。

Nat King Coleの時代そのままに贅沢な生音で迫るのは良いとして、敢えて言うなら、退屈なのだ。あるいは、10も20も年を取ってしまったように聴こえる。Lady GagaがTony Benettとやった時は、この人本質的にちゃんと歌えるんだなという、スタンダードに通じる実力を発見した楽しみがあった。が、Gregory Porterにはそんな「ほんとはちゃんと歌えるんです」というアピールは今さら必要ない。何故なら、当初から人を引き込まずにはおかない聴かせる声と表現力があるのだから。懐古趣味に走らず、今を歌っていってほしい。Gregory Porterは傑出したシンガーであるからこそ、敢えての「退屈」に星3つ。

今までハウスリミックスを許し、異色のジャンルのアーティストをフィーチャーしてきたことなど、攻めの姿勢のGregory Porterは輝いていた。まだ老け込んで欲しくないのだ。オリジナルを届けてくれるであろう次作を渇望する。(2017/12/2 記)

Take Me To The Alley (2016)


(★★★★★ 星5つ)



ヒット作”Liquid Spirit”以来、待望のニューアルバムが届いた。正統派のジャズスタイルを踏襲した曲が主流でありつつも、商業的な成功は少なからず作品に影響を及ぼしたようで、より軽やかで親しみやすい曲調になり、しかし歌詞を聴かせるボーカルは深みを増した。シャンパーニュで言うと、人気のキュヴェがより熟成期間を長くドサージュを少なくして洗練味を加えて新たな味とエチケットでモデルチェンジを果たしたような感じだ。

歌詞を聴かせるボーカル、と書いたとおり、Gregory Porterの第一の魅力はそこだろう。今回、スキャットやハミングなども入っているが、次にどんな言葉を歌うのかと耳を傾けずにはいられない。そこで聴いてみると、今回、曲の数々はより恋愛面に振り向けられた物の印象が強い。前作”Liquid Spirit”で一部に見られたような鋭い批判や社会性はそれに比べると、少しトーンが穏やかになった印象だ。個人的には批判精神は尖ったまま持っていてほしかった気がするが、これも熟成と洗練だろうか。それでも全体として魅力は損なわれていない。

よりポピュラー寄りな姿勢を感じるのは、デラックス盤にはリミックスが収録されていることでも分かる。去年は”The Remix – EP”という7曲入りのリミックス集が出ているし、リミックスで聴くとハウススタイルとの相性もいい。最近、人種や自分の元々の出自であるジャンルを超えるアーティストが数々見られるのと同じく、Gregory Porterもジャンルを超えようとしているように見える。いずれにせよ、聴いてみて満足できる間違いのない一枚で、これまたヒットが見込まれるだろう。(2016/5/13 記)

Liquid Spirit (2013)


(★★★★★★ 星5つ)

Gregory Porterは聴こう聴こうと思っていて、やっと聴いた。日本のニュース番組でインタビューが放送されていたりしたこともあったから、このルックスと相俟って見知っている人は少なくないだろう。

ところで肝心の音楽だが、素晴らしい。ブルージーな(死語か?)タッチの曲も渋い声質とベストマッチして、ほぉっと聴き惚れるが、やはり歌う中身に主張があるところがよい。”Musical Genocide”なんて曲は、今の音楽シーンに真っ向から反抗の切っ先を鋭く突き立てて、しかも音楽として成立している。

しかしこのアルバムの聴きどころはなんといっても”Water Under Bridges (Rubato Version)”だ。本当に泣ける。心に染み入る曲。薄っぺらい音、お安い「感動」に飽きたら是非。ジャズに分類されてはいるが、ユニバーサルな魅力を持っている。(2014/1/9 記)